ふぬけた僕に、どうして伊勢海老が!?
おばあが家にいないから、今年の正月は久々に僕ひとりで過ごすことになった。
どれくらい久しぶりかというと、沖縄の会社をやめて大阪のおばあの家の近くに住み、“おばあめし”を作ってもらうようになったのが2011年の4月からだから、ひとりきりの正月は13年ぶり。
特に元日は、昼前からおばあと過ごすことが当たり前になっていた。
おばあが暮らす介護福祉施設に会いに行こうにも、年末に施設内でコロナの感染者が出て、正月は面会することもできなくなってしまった。
普段ひとりで過ごすのは好きなほうだけど、正月におばあの顔も見ることができないとなると、やっぱり寂しい。
そして思い出すのは、正月に作ってくれた料理の数々……。
定番のおせち料理や巻きずし、
年越し蕎麦の出汁を使った雑煮や、
一皿にぎゅっと盛り付けたおせち料理も。
僕の友人ははおせち料理は好きじゃないと言うけど、酸っぱいゴボウやレンコンも、甘い栗や黒豆も、ほどよく塩抜きした数の子も、具材もすべて手作りの巻きずしも、僕は“おばあの味”が正月の一番の楽しみだった。
3年前には、おばあの友人が鳥取の境港から、
鮮やかな紅色で味も濃いベニズワイガニを直送してくれたこともあった。
さらに去年は、このブログ“おばあめし”が書籍になったので、出版祝いとして、
生きた伊勢海老を高知から送ってくれた。
豪華なカニやエビを口にできたのは、人に親切にしていたおばあのおかげ。だけど今、おばあは施設に移り、固形の料理が食べられなくなった。そのことはおばあの友人にも伝えてあるから、今年はエビやカニなんて届くはずもない。
かといって、自分でおせち料理をつくってみようとか、エビかカニを自ら取り寄せて、豪勢なごちそうを心ゆくまで味わってやる! なんて思えない。食べるのはどうせ僕ひとりなのだから、食べ物に時間や手間やお金をかける気になれない。
正月は予定もないし、食事なんて冷蔵や冷凍の残り物で済ませ、あとは寝てすごせばいい……そう決めて年が明けると、能登半島地震が発生した。
石川県には僕の知り合いが住んでいる。本人は大きな被害はまぬがれたけど、現地の惨状を聞くと、ますます新年を祝うどころではなくなった。
そして初詣にも出かけない引きこもり状態で3が日を過ごしていたら、3日目におばあの友人から連絡があり、なんと4日目に――
生きた伊勢海老が届いた!
今年はおばあが家にいないのに……。でも、だからこそ、独り者の僕がわびしい年始を過ごさないように、おばあの友人はスペシャルな食材を送ってくれたのだった。事前におばあとそんな話をしていたのかもしれない。何はともあれ、ありがとうございます! とお礼の電話をすると、もうゴロゴロしていられなくなった。
ちょうど石川県が能登半島地震の災害義援金の受付を開始したので、いただいた伊勢海老のぶんくらいの義援金を送った。
せめて僕がよろこんだぶん、誰かの苦しさが少しでも減ればいいと思う。
はじめての伊勢海老汁の作り方
伊勢海老は去年、香ばしく焼いた。それも絶品だったけど、食べたあとで、濃厚なダシが出る殻を捨てていたことに気づいて後悔した。
それに僕は今、おばあのように何でもおいしく炊いてしまう、“炊いたんマスター”を目指している。だから今回の調理法は“炊く”だ。
というわけで、メニューは伊勢海老汁に決定!
生きた伊勢海老はまず、氷水に漬けて仮死状態にして動きを止める。
そしてキッチンばさみを手にして――