洋風の“炊いたん”のコツを聞きにおばあの元へ
どんな食材でもおいしく”炊く”、おばあのような“炊いたんマスター”になってやる! そう決めて、僕がこれまでに作ったのは、大根やかぼちゃ、里芋、魚などを使った和食の“炊いたん”。
ちなみに“炊いたん”とは、鍋で煮た料理のこと。どんな煮物料理でも、おばあはそう呼んだ。
鍋で炊けば“炊いたん”だから、和食とはかぎらない。洋食の“炊いたん”だってある。例えば僕の好物、シチュー!
おばあが作るのは決まってクリームシチューで、ルウの量が多いのか、秘密の食材を入れているのか、あの『天下一品』のこってりスープに匹敵する濃厚さだった。
かといって塩辛くも油っぽいわけでもなく、味は絶品。思い出すだけでまた食べたくてたまらない。
というわけで、今晩のメニューはクリームシチューだ!
そうと決まれば、アドバイスをもらいにおばあの元へ。パーキンソン病が進行し自宅で暮らせなくなったおばあは、介護福祉施設に移った。前回は――
おばあが暮らす施設内でコロナの感染者が出て、面会禁止になっていた。だけどさいわい感染は広がることなく、また面会できるようになったのだ。
この日おばあは、昼過ぎでもベッドで眠っていた。パーキンソン病の影響で、そのときによって覚醒度に差があり、会話ができるときもあれば、ゆすっても起きないくらい深く眠り込んでいることもある。
今日は話せない日だろう、とあきらめながらも話しかけたら、
「お、おう。とものぶ…のぶ」
目を見開いて、僕の名前を呼んでくれた。
「おばあ今日はシチュー作ろうと思うんやけど、おいしく作るコツはある?」
耳に顔を近づけてたずねるとおばあは
「そんなら……」
と少し考えたかと思うと
「好きなもん入れたらええ!」
と力強く言った。
この前も同じことを言われた気がするけど……。それだけ重要だということ。好きなものを好きなように炊く、それが“炊いたん”の真髄にちがいない。
洋風のクリームシチューでも、直感にしたがって好きなものを入れて、おいしく“炊いて”やる!
そう気合を入れ直し、スーパーに行って買ってきたのは、クリームシチュー……じゃなくて、

ビーフシチューの素。
なぜかというと、この日は商店街ではなく、ダイエーに行ったからだった。目当ては『栗原はるみのクリームシチュー』。他より高いこの素が、アプリのクーポンで50円引きになる。せっかくだから、このちょっといい“素”でクリームシチューを作ってみたい。
そう思うのは他の人も同じらしく、僕が行ったときにはもう目当ての品は棚から消えていた。他のクリームシチューの素もあったけど、『栗原はるみのビーフシチュー』ならあと2箱だけ残っている。これも50円引きだし、ビーフシチューもひさびさに食べてみたい。おばあが作るのはクリームシチューだったので、ビーフシチューなんて20年くらいは食べていない。
味を思い出そうとすると、「好きなもん入れたらええ!」というさっきのおばあの声が、頭の奥にまたこだました。
それと同時に、ビーフシチューに入れたい“好きなもん”を思いついた。
その具材とは――

ハンバーグ! 真空パックのハンバーグを冷凍したものが、家の冷凍庫に眠っていた。ハンバーグを入れたビーフシチュー、というよりハンバーグシチューなんて今まで食べたことない。でもこの組み合わせは間違いなくおいしい!
おばあの料理を食べ続けてきた僕の直感が、そう告げている。
過去におばあも、ハンバーグの天ぷらという――
脂たっぷりで背徳感満点の、オリジナルメニューを作ってくれたことがある。僕もハンバーグの新メニューに挑戦しようと思う。
食材は他にも、

こんなものを用意して、調理にとりかかる。
具材たっぷりハンバーグシチューを作る
作り方は、ビーフシチューの素の、

箱の説明を参考に……と思ったけど、牛肉を使わないので最初の段階からもう違う。牛肉のかわりに、
