北の将軍様より人望は上?豪華料理を食材をもらって賄うおばあ。赤飯と手羽元・謎の揚げ物


北の将軍様より人望は上?豪華料理を食材をもらって賄うおばあ。赤飯と手羽元・謎の揚げ物

メニュー
・手羽元と??の揚げたん
・赤飯(町内会の常会のもらいもの)
・たけのこの炊いたん(たけのこはナカムラさんから)
・明太子(博多みやげ)
・みそ汁(2日め)
白菜、玉ねぎ、たまご、青ネギ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

おばあと僕の二人ではとても食べ切れそうにない山盛りの揚げものに、初物らしいたけのこの煮物と博多の明太子という贅沢なおかず。さらに、いつものサラダとみそ汁に加えて主食は赤飯だ。

何かめでたいことでもあったのだろうか。おばあの血圧の数値が劇的に改善していたとか……いや、今日は病院は休みだ。僕もおばあも誕生日ではないし、おじいの月命日には近いけど、誰かが死んだ日を祝うなんてどうかしている。

世の中では何かお祝いするようなことが起こってるのかとテレビをつける。すると僕と同い年の某人民共和国の最高指導者が昨夜、死んだおじいさんの105回めの誕生日を祝って舞踏会を開催したというニュースをやっていた。

「とっくに死んだもんの生まれた日が、なんでめでたいねん」
手羽元の唐揚げを手づかみでかじりながらおばあがいった。はからずもキリストの誕生日であるクリスマスも同時に否定しているおばあに、僕は全面的に同意して「そうや、そうや!」とうなずいた。テレビでは広場を埋め尽くす膨大な数の若者が、舞踏会というよりショーのようなぴったり息の合った踊りを披露し、彼らの指導者のやり方に汗を流しながら全身で同意する意志を見せていた。

「晩ごはん豪華やけど、おばあも何かめでたいことがあったんか?」
「いいや、なんもない」
「じゃあこの赤飯はなんやねん。めでたい食べもんやんか」
「それは、町内会の常会でもらったもんや」
町内会の役員をしているおばあは昨日の集まりで、一年の労をねぎらう意味で赤飯をもらったという。

「じゃあ、たけのこはどうしたんや? やわらかそうやけど今年の初物か」
「そうや。ナカムラさんが採ってきたんをくれたんや」
大きなものはイノシシに食べられていたので、初物の中でもとくにやわらかい小さなたけのこだけをくれたという。ひとくちかじると、ふにゃりとした板状の繊維が次々と潰れる絶妙な食感。これが固い竹に生長するとは想像もつかない。アクのえぐ味がまったくなく、うす口醤油ベースの味付けにかつおだしがしっかりと効き、たけのこそのものの味わいが引き立っている。

明太子も博多みやげで人からもらったものだし、みそ汁は昨日の残りをあたためたもの。サラダはトマト以外、数日ぶんストックしてある。おばあが今日、材料を買ってきていちからつくったのは山盛りの揚げ物だけだ。

骨のある手羽元の唐揚げは手づかみで食べる。全体をまんべんなく覆う衣がサクサクとして、内側のジューシーな肉とのコントラストがいい。最近おばあは唐揚げをするとき、衣に「揚げずにからあげ」を使ったうえで、なぜか油で揚げていた。あれはあれで小さなあられ状の衣の食感が良かったけど、普通の衣もやっぱりうまい。手づかみで骨から肉をかじり取って食べるのも楽しい。

手羽元の隣の皿に積み上げられている揚げ物はなんだろう。おばあに聞いてみると、手羽元の骨をしゃぶりながらにやりと笑った。
「ええから食べてみいや。はじめて揚げてみたから、うまいか知らんで」

「うまいか知らん」といっているけど、あの表情からすると味には自信があるのだろう。衣の奥に透けて見えるのは、真っ黒な食材だ。揚げておいしい黒いものといえばレバーか、それともクジラの肉か。そういえば先日、日本の食文化を勘違いしたロシア人が、巻きずしを天ぷらにしている様子をテレビでやっていた。まさかおばあは、あのロシア人の発想を日本家庭の食卓に逆輸入してしまったのではないか。衣の奥の黒いものは海苔で、中には酢飯やきゅうりが詰まっている……。だけどおばあの表情は、おいしいと告げていた。

僕は余計なことを考えて先入観を持たないよう、さっきテレビでやっていた舞踏会の様子を思い浮かべながら、謎の揚げ物をできるだけ見ずに口に運んだ。サクッとした衣のあとに、やわらかな肉を押し固めたような食感。濃厚な肉の味と玉ねぎの甘味が口いっぱいに広がる。これは、ハンバーグだ! しかも意外にうまい!

金曜日に食べた、おばあが肉屋で買ってきたハンバーグを揚げている。肉屋のハンバーグは金曜日にしか売っていないない。“限定”につられておばあはつい買いすぎたのだ。ということは、揚げ物も半分は残りものを使っていたということだ。ほとんどが残りものともらいもので、これだけの料理を用意するおばあは料理の腕も、そして人望も僕が思っているよりあるのかもしれない。せめて二ヶ月後の、生きているおばあの生誕祭は、ちゃんと祝おう。

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