どんな食材でも、ひとたびおばあが鍋で煮ると、やわらかく味がしみてごはんにぴったりな絶品の”炊いたん”ができあがる。
そんなおばあみたいな“炊いたんマスター”に、僕もなる!
そう決意して、これまで――
魚とか
芋とか、いろいろ炊いてきた。
だけどまだ……僕は作っていなかった。
おばあがよく鍋で炊いて作ってくれた、子どものころから最高に大好きなあの料理を!!
それは――
カレー!
カレーといえば自炊の味方。市販のルウを使って食材を煮込むだけで、手軽においしく作ることができる。
それはわかっている。わかっているけど……自分で作るなら、大好きなおばあのカレーそっくり、とまではいかなくても、どうしても近い味を求めてしまう。
ところが、そのおばあのカレーを自分で作って再現できる自信がない。
でも……もはやそうも言っていられない。
エアコンもなかなか効かないほどの猛暑日つづきで、食欲が落ち、仕事も身の回りのことも集中できず、すぐにぼんやりしてしまう。
こんなとき、おばあなら……そうだ、カレーを作ってくれた! カレーならバテ気味でもおかわりしたし、食べればやる気も湧いてきた!
今こそ、自分で作るときだ!
と奮い立ち、炎天下の中、汗だくで買ってきたのが――
この食材。
味の決め手のカレールウは――
S&Bの『プレミアムゴールデンカレー中辛』。
おばあはいつもルウを何種類か混ぜていて、毎回、その種類を変えていた。ただ、ゴールデンカレーは、毎回のように入れるおばあのお気に入りだった。
僕も同じゴールデンカレーを選ぼう! と思ったら、隣にこの“プレミアム”ゴールデンカレーを発見!
これ、ふつうのやつより、絶対おいしいやつや! 値段は倍くらいするけど、そのぶんスパイスたっぷりで香りがいいみたいだし、おいしくなるなら……これに決めた!
ただ問題は、他にどのルウをブレンドするかだ。おばあのように絶妙な配合にしたいけど、種類が多すぎて何を使えばいいのやら……。そもそもおばあは少しずつ替えていたから、ゴールデンカレーのほかは、絶対にこれ! というものがない。
それに、実はスーパーに行く前、おばあが暮らす福祉施設に寄って聞いていた。だけどおばあ自身も覚えていなかったのだ。
「う~ん……そら、好きなもん入れたらええ」
と答えただけで、その後も粘ってみたものの、早めの入浴で疲れているようですぐに眠ってしまった。
“好きなもん”と言われても、よけいにわからない。料理の勘と直感がするどいおばあなら、“好き”に選んでも最適な組み合わせがすぐに思いつくだろうけど……。
プレミアムゴールデンカレーを選んだいま、ヘタにブレンドするよりこれだけで作ったほうがおいしくなりそう。
そこでルウは一種類にしたのだった。
具材はおばあが使っていたものを思い出し――
たっぷりの玉ねぎにニンジン、それに以前、おばあが「隠し味に入れた」と言っていたトマト。
さらに定番の……しまった! じゃがいもを買い忘れてしまった。今から買いに行くのも、外はものすごく暑い……おばあも、具材をいろいろ変えていたし、大丈夫だ! と自分に言い聞かす。
だけどそうなると、もはやおばあのカレーとはかけはなれて……いや、メインの具材――
牛すじ肉は、たっぷり用意してある。
おばあは生の牛すじ肉を買ってきて、何度も茹でて余計な脂を抜く下ごしらえをしていた。僕も下ごしらえ頑張ろう! と台所で汗だくになることを覚悟していたら、すでにボイルした国産牛のすじ肉が売られていたのだった。しかも3割引! 1パック500円くらいだった。
これは手に取らないわけにはいかない。
牛すじ肉はいくら煮込んでもパサパサにならず、旨味の強いダシも出る! これさえ入れれば、おばあのカレーのおいしさに近づける!
さらには、かつてトッピングしたことがある――
ナスも用意。
よし! とエプロンのひもを締めて調理にとりかかる。作り方は、おばあが調理していた様子を思い出し、念のために――