牛すじ肉がいつもの2倍!インフルエンザにとどめを刺す、おばあの牛すじカレー

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メニュー
・カレー
牛すじ、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、
・らっきょう
・温奴
豆腐、かつお節
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

おばあは昨日、インフルエンザにかかっていることが判明した。幸い予防接種を受けていたおかげで、高熱にうなされることはなかったし、体調不良のピークは過ぎ、今日はちょっと鼻声なだけで元気そうだ。

今晩のメニューはカレーだ。しかも大きな牛すじ肉が、底の深いカレー皿からこぼれ落ちそう。いつもの量の2倍は入っている。牛すじ肉は、何度も下茹でして余分な脂を取り除かないと料理には使えない。おばあはお湯と牛すじ肉で満たされた重たい鍋を抱え、コンロとシンクを何度も往復したのに違いない。それだけ体力が回復したということだ。

おばあの皿にも、カレーがたっぷりと盛られている。食欲も戻ってきたようだ。

今日のカレーの見た目は、一段と食欲をそそる。まずは具をよけて、カレーとごはんだけをスプーンですくって口に入れる。いきなり濃厚な肉のうま味がやってきた。牛すじ肉からふんだんに出たダシが、カレーに溶け込んでいるのだ。スパイスの香りが後から鼻に抜ける。個性の強いスパイスの香りに勝るほど、牛すじ肉のダシのうま味が効いているのだ。

付け合せの大ぶりならっきょうは、おばあの生まれ育った愛媛の山村でつくられたもの。これが送られてきたからおばあは、今晩のメニューをカレーにしようと思い立ったのかもしれない。ひとつつまんで半分かじる。強めの酢の味とシャキシャキとした食感が、牛すじのうま味たっぷりのカレーに負けず、よく合う。後味はさっぱりとして、またカレーが食べたくなる。

ここでようやく、牛すじ肉に手を付ける。ルウから飛び出たひときわ大きなものと、ごはんを少しすくってぱくりと頬張る。口の中がやわらかな感触で満たされ、噛んでいるだけで自然と、ゼラチン質や脂が喉の奥に滑り落ちていくのがわかる。後に残るのはカレーの香りと幸福感。

おばあにカレーの感想を伝えようと思ったとき、
「こんなん、味がせえへんわ!」
おばあが吐き捨てるようにいった。
何をいってるんやおばあ。今日のカレーは味がしないどころか、いつもより強烈に牛すじ肉の味がプラスされているやんか!

僕はわけがわからず、ひとまずらっきょうを口に入れた。酸味と歯ごたえに意識を集中させ心を落ち着かせる。そういえばおばあは鼻声だ。鼻が詰まって、味が感じにくくなっているのだろう。おばあに聞くと、その通りだとうなずいた。おばあは着実に元気になっているけど、まだインフルエンザの症状は残っている。

僕は食事を終え、食器を台所のシンクに運んだ。コンロの上に、おばあが持っている中でも最大級の鍋がのっている。フタを開けると、牛すじ肉がぼこぼこと表面に浮かんだカレーがまだ、なみなみとたたえられ、湯気を立てていた。これは3日かけても2人で食べ切れる量じゃない。おばあは近所に配るつもりだ。

いくら火にかけているとはいえ、インフルエンザ患者がつくったものを、他人に食べさせるのは危険だ。このままでは、インフルエンザが町内に蔓延してしまうかもしれない。

熱を加えれば何でも食べられると思っている頑固なおばあを説得するのは気が重い。でも予防接種を受けていない近所のお年寄りが危機にさらされることを思えば、僕の責任は重大だ。とりあえず、少しでもカレーを減らしておこうともう一杯、カレーで皿を満たして席に着いた。