大根でも魚でも具材は何でも、おばあは鍋で煮た料理を“炊いたん”と呼ぶ。その炊いたんを、おばあは僕に毎日のように作ってくれた。生まれ育った愛媛の山奥でも、料理当番だった子どものころから何かを“炊いて”いたというから、生涯でいちばん作っているおかずは炊いたんにちがいない。
おばあが施設に移り、自炊するようになった僕も、気づけば炊いたんばかり作っている。この前も、大根の炊いたんを、施設のおばあにコツを聞いて作った。
おばあの味にはまだまだかなわない。それでも、焼いたり揚げたりするより適当に食材を鍋に放り込んで加熱すれば、失敗せずにそこそこおいしくできるから、“炊いたん”は自炊に欠かせない。
ほとんど放っておけばいいので、ほかの料理と同時並行で作ることもできる。おばあが毎日のように食卓に並べていた理由が、今になってわかった気がする。
ただ、火にかけた鍋の湯気を見るたびに、頭の中にもやもやと後悔の念が湧き上がってくる。
簡単なようで奥が深い炊いたんのコツを、どうして直接、おばあから学ばなかったのか。
おばあがいつか台所に立てなくなることはわかっていたのに、見て見ぬふりをしていた自分はなんと浅はかだったのか。
そう思うと、グツグツ煮える鍋の中で、具材と一緒に炊かれてしまいたくなる。そしてできたものを口に入れ、柔らかく炊けた食材をグッと奥歯で噛みしめずにはいられない。
それでも、手軽にそこそこおいしく作れるから、炊いたんはやめられない。
でも……いや、だからこそ、炊いたんをもっとおいしく作れるようになりたい!
おばあは施設にいるけど、料理のコツを聞くことはできる。それを毎日実践して、“炊いたんマスター”に僕はなる!
そう決意した10月の終わり、まず思い浮かんだ炊いたんの具材は、かぼちゃ! あらため、おばあの呼び方で、なんきんだ! 理由はもちろん、ハロウィンだから。
横文字の季節のイベントに、アラフォーの自分がひとりで首を突っ込むのは、かえって寂しくなるから気が引ける。だけどおばあも季節の行事には、クリスマスでもバレンタインデーでも、おばあ自身が思う“それっぽい料理”を作って、僕と一緒に楽しんだ。
ここ数年はハロウィンが近くなると、なんきんを炊き、おにぎりにかぼちゃを混ぜたこともあった。
だから僕も、なんきんの炊いたん、作ってやる!
過去の『おばあめし』を見返してみると、おばあの語りを記録したーー
↑こんな記事があったし、
↑こんな見事ななんきんの炊いたんも見つかった。
さらに、僕が固いなんきんを切っておばあを手伝った、
↑こんなこともあった。
やる気が沸いてきたところで家を飛び出し、おばあがいる施設に行った。
そしてなんきんの炊いたんのコツを聞くと、
「そんなんないわ」
と眠そうな顔で言われた。
パーキンソン病の症状で、眠る時間が長くなっているのだ。
それでもおばあはゆっくりと、絞り出すような声で教えてくれた。
かぼちゃは、大根みたいに芯が固いままということもなく、炊けば割と簡単に柔らかくなるとのこと。
味付けは醤油と酒と砂糖。分量や入れる順番までは教えてくれなかったので、ネットで検索するしかない。
注意点として、
「切るのが大変やで」
と言われたけど、僕はおばあを手伝って切ったことがあるから
「それだけは大丈夫!」
と告げて、おばあの部屋を去り、
半分になったかぼちゃを買ってきた。包丁を入れるとーー
やっぱりかなり固い! だけど、
なんとか切り分けて鍋に並べ、ひたひたになるくらい水を入れ、
酒を大さじ2を入れて火を付けて、
沸いてきたところで、砂糖を大さじ2(小さじ6)入れて、
クッキングペーパーで落とし蓋をして、10分くらい炊く!
そして見るからに柔らかくなったところで、