メニュー
・ハンバーグ(肉屋で購入)
・鯛のあらの炊いたん(2日め)
・煮物
大根、糸こんにゃく、ごぼ天、ちくわ
・いくらの醤油漬け
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
料理といえば和食が基本のおばあもたまには、夕飯にハンバーグを出す。箸でつつけばふわっと崩れて、中から肉汁があふれ出す……なんて、洋食店やファミレスで出てきそうなやつじゃない。粗びきの合い挽きミンチが内側までしっかりと詰まった、持てばずしりと重さを感じるほどの“硬派な”ハンバーグだ。
箸で割ると肉汁は出てくるけどあふれるほどじゃない。使われているミンチに脂が少ないのだ。洋食店のハンバーグが、上質な脂が溶けた柔らかな食感と味を楽しむものだとすれば、おばあが夕飯に出すものは赤身肉のうま味を味わうものだ。赤身肉のステーキのような歯ごたえはないので、総入れ歯のおばあでも問題なく食べられる。
とはいえこのハンバーグは、おばあがつくったものではない。商店街の肉屋がつくっているものを、おばあが買ってくるのだ。味にうるさいおばあがひいきにしている肉屋だけあって、サシの入った和牛肉ではなくても、そこそこいい赤身肉のミンチが使われているようだ。
今晩のおかずには肉屋のハンバーグがある。だけど隣には、同じくメインを張れる鯛のあらの煮付けが並んでいる。同じ形の皿に大きな頭が盛られ、白い目玉がハンバーグににらみをきかせている。
鯛のあらの煮付けは昨日、おばあだけが食べた。ある理由があって、僕には別の魚の塩焼きが出されたのだ。だから今日、鯛のあらの煮付けさえ出しておけば、僕は昨日とメインの料理がかぶることはない。なにしろ正月に食べる高級魚、鯛のお頭だ。もちろんハンバーグも一緒に食べられるのはうれしいけど、なければないで満足できていた。おばあは今日、新しく好物の煮物もつくっている。おばあもハンバーグ以外のおかずでじゅうぶんだったのではないのか。
もしかして、特売で安かったからつい買ってしまった。ということはないだろうか。つまりハンバーグは肉屋がセールをするときにだけ買ってきている。だからたまに忘れたころ、定期的にハンバーグが食卓に上るのかもしれない。
「おかずが豪華だけど、ハンバーグを買ってきたんは、やっぱり安くなってたから?」
僕はテーブルの向かい側のおばあに聞いた。おばあは箸をつきさして持ち上げたハンバーグにかぶりついている。
「肉屋はな、このハンバーグ、金曜にしかつくらへんのや!」
おばあはそれ以上答えず、食べることに必死な様子。
肉屋のハンバーグは金曜日限定だったのか。そういうことなら別の日より安くなるということもないだろう。わざわざ僕にそれを伝えたということはおそらく、おばあはハンバーグに狙いを定めて今日、金曜日に商店街の肉屋を訪れたのに違いない。謎は深まるばかりだ。
僕もハンバーグをかじる。細かく刻んで混ぜてある、よく炒めた玉ねぎの甘味とピリリと効いた胡椒が、濃厚な肉の味を引き立てている。飲み込むとまた、すぐに食べたくなるクセになるおいしさだ。
半分を食べて顔をあげると、おばあはすでにひとつ食べ終えていた。もうひとつを残して、鯛のあらにとりかかる。穏やかな笑顔で、ためらいなく手づかみで骨から身を外す。ひとくち食べ、今度はハンバーグも手づかみで口元に運んだ。そして口の中のものを飲み込むと、ひとくちお茶を飲み、満ち足りた様子でイスの背もたれによりかかった。そしてゆっくり息を吐くと、満面の笑みを浮かべた。そうか、わかった! おばあは自分が好きな魚と肉を同時に、好きな食べ方で味わいたかったんだ。おばあを見習って僕も、鯛のあらに手を伸ばした。