いつも晩ごはんを食べたあと、食器や鍋を洗うのは僕の役目と決まっている。それに加えて最近は、コンロや冷蔵庫、棚、床まで毎回、布巾で拭くようになった。
というのも……「手も足も、だんだん言うこときかへんようになってきた」となげく高齢のおばあの負担を減らし、清潔な台所でおいしい料理を作ってもらいたいから!
その僕の気持ちが通じているようで、おばあは80代後半にさしかかった今も、料理は主菜に副菜にサラダと、必ず3皿以上用意してくれる。それどころか正月でも誕生日でもないのに、刺身に焼き魚、さらには牛肉たっぷりのすき焼きと、主役級のおかずが3種類いっぺんに出てきたりもする。
そんな日はお腹も心も満たされて、じんわりとした幸福感につつまれる……けど、食後は二人ぶんとは思えない大量の洗い物が待っている。おばあが腕によりをかけた僕の好物を、お腹いっぱい平らげたのだからそれくらい当然……とはいかない。満足感にひたっているからこそ、食後の洗い物がより面倒に感じるのだ。
というわけで、僕はおばあに、
「合いそうなおかずは、大きめのお皿に一緒に盛りつけてや。洗い物が減って見た目も豪華になるし」
と以前にお願いしていた。
それから、魚や鶏肉などの焼いたおかずは、サラダの上にトッピングしてくれるようになった。
洗い物は減るし、ボリューム感が出て食欲は増すし、まさに一石二鳥! それに盛り付けのセンスと、一緒に乗せるおかずの組み合わせもばっちりで、おばあの料理辞典にハズレの文字はない!
だからといって、今晩のワンプレート――
なんかいろいろ乗ってて……これどうなってんねん、おばあ!
そのおばあはというと、髪の毛に寝癖がついたままでボサボサ!? もしかして、今日はやる気が出なくて、作ったものをとにかく全部乗せた!? いや……そんなことはない!
メインの茶色く照りのあるおかずは、おばあの得意料理、酢豚ならぬ酢鶏! 『豚』じゃないのは、揚げた豚肉の代わりに総菜の鶏の唐揚げを使っているから。時短とおいしさを両立させた『おばあめし』の定番料理だ!
その酢鶏が、いつもの生ブロッコリー入りサラダの上にトッピングされ、さらに奥には――
トマトまで! そして脇には――
鮭の切り身も控えている! 朝ごはんだったらメインの鮭が、他のおかずの添え物のような扱いとは!?
僕が一品ずつ確かめながら驚いていると、
「温かいうちに、さっさと食べや!」
とおばあの大声が飛んできた。
その声に慌てて食べはじめると……これは!?
定番の酢鶏がおいしいのはもちろん、その甘辛い『餡』がからんで、ちょっとクセのある生ブロッコリーやピーマンが中華の一品に仕上がっている! この餡、ちょっと焼きすぎて表面がカリカリになった鮭にもぴったりだ。
そして何より、トマトの酸味と甘みが引き立てられて……この組み合わせ、最高やで、おばあ!
酢鶏とほかの食材の相性を見抜いたおばあの眼力、僕にはかなわない。そのうえ洗い物まで少ないなんて……。
「これ、完璧やで!」
思わず興奮気味に伝えると、おばあはテレビに目を向けたまま何も言おうとしない。でも心なしか、誇らしげに胸を張ったように見えた。