昨晩おばあが食卓に並べたのは、独自のセンスと工夫が詰まったワンプレート。そこには得意料理の酢豚ならぬ『酢鶏』が、いつものサラダやトマト、焼き鮭と一緒にひしめいていた。
気になる味は……酢鶏の甘辛い『餡』が、野菜や鮭にも驚くほどぴったり! 立派な中華料理の新メニューが、お皿の上で完成していた。特にトマトは甘みと酸味が引き立てられ、そのままでもごはんと一緒でもバクバクいけるたまらない味に。
しかもワンプレートなので、洗い物係の僕の手間も最小限という、まさに完璧な時短料理だ!
そう褒めたからなのか、今晩も食卓に乗っているのは――
昨日とそっくりなワンプレートやんか、おばあ!
おばあ自身もーー
昨日と同じ長袖を着ているし、先に食べて居眠りしているし……もしかして、春の陽気でぼんやりとしてやる気が出ないから、昨日の残りを皿に乗せただけ!? いや、そんなはずは!
酢鶏は昨晩、ほとんど食べてしまって、鍋にはこれほど残っていなかった! ということは、また新しく作ったということ!?
そもそも、酢鶏が『酢豚』じゃないのは、豚肉の代わりに総菜の鶏の唐揚げを使った、おばあオリジナルの時短料理だから。
でもよく見ると、今晩の酢鶏は様子が違う。この鶏肉――
どう見ても唐揚げじゃないものが混ざっている! 緑のネギらしき野菜も仲間入りし、衣のない鶏肉には小さな穴が開き、ちょうど串が刺さっていたような……って、これ、焼き鳥の『ねぎま』の串を外したやつやろ、おばあ!
僕が昨日、酢鶏のワンプレートを褒めたから今日も同じもの……という安易な考えは、長年料理を作ってきたおばあのプライドが許さなかったらしい。
だから唐揚げの代わりに、わざわざ総菜屋で焼き鳥を買ってきて串を外し、鍋に残っていた酢鶏の餡に投入したのに違いない!
食べると、やっぱり! 甘酢の味わいにプラスされた、この和風の甘辛さは……焼き鳥のタレ! とろみのある中華と和食の甘辛さが溶け合って、この味、最高にごはんがすすむやんか、おばあ!
魚も昨日は焼き鮭だったのが――
今晩は塩サバに代わっている。ただでさえ、ごはんとの相性は最強クラスなのに、そこにこの琥珀色に輝くタレをからめると、もう……ごはんが止まらない!
目を覚ましたおばあに
「ごはん、ちょっとお代わりするで」
と告げると、いつもは太るからと止められるのに、
「好きにせえや!」
となぜかキレ気味に言われた。
その言葉に、好きにするわ! と心の中で叫んだけど、今晩のワンプレートで好きなだけごはんを食べると、とんでもない量を平らげてしまうのは確実だ。そう思うと何だか罪悪感が湧いてきて、炊飯器のフタを開けてしばらく立ち止まり、結局ごはんは小盛りにして食卓に戻った。