おばあが納豆を皿に入れるのは、死んだおじいのため? トレイのままの納豆と酒まんじゅう


おばあが納豆を皿に入れるのは、死んだおじいのため? トレイのままの納豆と酒まんじゅう

メニュー
・納豆
納豆、卵黄、青ネギ
・煮物(2日め)

手羽元、ごぼ天、糸こんにゃく、たけのこ、じゃがいも、白い練りもの
・みそ汁(2日め)
豆腐、白菜、玉ねぎ、たまご
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

正方形の発泡スチロールトレイの表面を埋め尽くす、刻んだ青ネギと生の卵黄。その下にあるのはもちろん僕の好物、納豆だ。これまで夕飯におばあが納豆を出してくれるときは中身を、はじめから入っているトレイから陶器の皿に移してくれていた。見た目もきれいでちょっと高級感があるし、容量が多くて混ぜやすいから陶器の皿のほうがうれしい。

前回おばあが納豆を出したときも、味気ない白いトレイのままだった。だけどあの日は、おばあがインフルエンザにかかっていて体調がすぐれなかった。それを僕に黙ったまま、できるだけ手間をかけない方法で夕飯を用意してくれたのだった。あの日、夕飯に並んだトレーのままの納豆は緊急措置で、健康になったらまた皿に入れて出してくれるものだとばかり思っていた。

自分で移し替えてしまえば済む話だけど、たぶんおばあはいい顔をしない。おばあは今、花粉症と持病の膝痛、高血圧を除けば、顔色に桜の花びらのようなうすい赤味がさし、体調はよさそう。納豆には卵黄をのせ、青ネギを刻んで入れるという手間も加えている。おばあは体がだるくて面倒だから納豆をトレイのまま出したというより、別の理由がありそうだ。

考えられるのはまず、前回、トレイのままで何も問題がなかったということ。僕は皿よりも小さなトレイに入った納豆を、ひと粒もこぼすことなくとろとろになるまでかき混ぜた。それを見ていたおばあは、皿に移し替えるひと手間は必要ないと判断したのだろう。

さらに思いつくのは、もっと根本的なこと。おばあは納豆が嫌いなのだ。あの独特の香りとねばねばを生理的に受け付けられず、口に入れる物だと認められないらしい。僕が好きだからたまに買ってきてくれるけど、向かいの席で納豆をかき混ぜはじめるとおばあは顔をしかめ「よう、そんなもんが食えるな」とぼやいたりする。あの粘りで表面がしっかりとコーティングされた皿を洗うのは、納豆嫌いのおばあにはさぞ苦痛だろう。

そもそも納豆を皿に入れるのは、納豆が好きだったおじいが生前、おばあに頼んでいたことだったのかもしれない。そうでなければおばあが自主的に、おじいのために見た目と混ぜやすさを考えて入れ替えたのがはじまりだろう。

おじいはすでに亡くなり、僕は小さなトレイのまま問題なく納豆を混ぜていた。それなら納豆はトレイのままでいい。納豆くさい皿洗いからも解放される。おばあはおそらくそう思ったのだ。

僕は今まで、洗いもののことまで考えていなかった。今晩から納豆はトレイのまま食べることにしよう。だけど目の前のトレイには、卵黄と青ネギがたっぷりトッピングされている。混ぜるとこぼれてしまいそうだ。ここでこぼすと、おばあはまた次から、皿に入れ替えなければいけないと思うだろう。

僕は卵黄の上からゆっくり箸を突き立てた。そしてこれまで食べてきた納豆史上もっとも時間をかけて、慎重に箸で円を描いた。じゅうぶん混ぜてごはんにのせたときには、テーブルの向かい側に座るおばあの夕飯は半分以上、すでになくなっていた。

好物の納豆を前にして、時間をかけて混ぜていた僕の空腹は、ヘソから音が聞こえて来そうなほど最高潮に達していた。納豆ごはんをかき込み、野菜や煮物を頬張ってみそ汁をすすった。すべて食べ終えたのは、おばあが箸を置くのとほとんど同時だった。

「納豆は、皿に入れたほうがええのか?」
おばあが聞いてきた。僕が時間をかけて混ぜにくそうにしていたのを、気にしてくれているのだ。ネギを山盛り入れても混ぜやすくて、すぐに食べられるし皿のほうがいい! といいたかったけど、満腹の腹に力を入れてぐっとこらえ、トレイのままでいいと答えた。納豆くさい皿を洗う必要がなければ、おばあは楽だし、納豆を出してくれる頻度が上がれば僕もうれしい。

おばあは空の食器を持って台所に行くと、何かを電子レンジであたためはじめた。そして湯気が立つ、小皿を2つ持ってきた。のっているのはふっくらとしたまんじゅうだ。あたためて食べるまんじゅうなんて見たことないけど、皿には見覚えがある。納豆を入れていたやつだ!

「なんで今、それを出すんや!」
僕は咄嗟に、皿のことをいったつもりだった。するとおばあは、
「酒まんじゅうや! ナカムラさんにもろうたから出すんや! 嫌なら食うな!」
と声を荒げた。

僕は何もいわず、熱いまんじゅうをつまんでひとくちかじった。あたためたこし餡は甘味が増し、周りはたしかに酒の風味があってうまかった。

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