鳥取境港の極上ベニズワイガニの最高の食べ方

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「早うこい!」
とだけ叫ぶように告げて、おばあからの電話が切れた。

最近調子が悪いトイレのタンクがあふれたのか? 固いカボチャを切ろうとして、包丁が抜けなくなったのか? まさか……玄関の段差で転んで、怪我でもしたのか!? そして立ち上がれなくなり、ようやく電話機まで這ってたどりつき、残りの力を振り絞って僕に助けを求めたのがさっきの電話!?

全力ダッシュでおばあの家に駆け付けると、居間の入口に横たわっていたのは、おばあ……ではなく、大きな発泡スチロールの箱!?

「カニを送ってくれたんや」
とおばあが、イスに座ったままいつもの血色のいい顔で言う。

元気そうで安心したけど……カニだって!? しかも箱の表示によると、鳥取の境港であがったベニズワイガニ!! おばあの知り合いから、新年のお祝いに送られてきたらしい。

箱を開けると、氷詰めになった名前通り真っ赤なカニが!! こんなの食べたことないけど、たしかベニズワイガニって……カニの中でも極上のやつやんか、おばあ!

ところがおばあは、僕が手に持つように言っても――
ベニズワイガニを手に持つ祖母(おばあ)
「こんなん、持たんでええわ」
と何だか、やけに嫌がっている。

愛媛の山奥で育ったおばあは、カニを食べる機会があまりなかったはずだから……まさか……カニが苦手!? こんなに見事なカニなのに! そういえば、おばあがカニを食べているところなんて、見たことない。

ひとまず僕が、自分で食べたい気持ちをおさえつつ、カニの脚を折り、胴体を割ってエラを取り除き、食べやすい形にしておばあに差し出す。苦手だとしても、いつも料理を作ってくれるおばあが最優先だ。それに、僕よりグルメなおばあのことだから、一度食べたらカニのおいしさがわかるはず!
食べやすく殻をむいたベニズワイガニ
そして、食べ方を説明しようとしたところ……向かい側からおばあの手が伸びてきて――
カニの足を持つ手
カニの脚をつかみ取り、
カニの脚を吸うように食べる祖母(おばあ)
それを吸うように食べ、また別の脚を吸い、
カニの胴体を食べる祖母(おばあ)
すぐに胴体にとりかかる。やがて身をきれいに平らげ――
カニの甲羅のカニミソを食べる祖母
ミソもためらいなく殻ごとすするこの食べっぷり……実はカニ、大好物やったんか、おばあ!

ようやく僕も食べはじめると、何年かぶりの丸ごとのカニは、身もミソもしっかり詰まっていて、これまで味わったことがないほど濃厚で甘みがあって……もう最高!!
食べ終えた後のカニの殻
食べ終わるとおばあが、
「おかずも蕎麦もまだあるから、自分で用意して食べや!」
そう言って――
カニを食べた後に座ったまま居眠りする祖母
座ったまま満足そうに目を閉じる。

カニは絶品だったけど、たしかにまだ食べられそう。台所に行くと、鍋には鶏肉入りの蕎麦のダシが温まっていた。年越し蕎麦のときと同じく、袋入りの麺を入れて蕎麦をつくる。そこにおばあが刻んでくれていたネギをどっさり入れて――
鶏肉とネギの入った蕎麦
とりネギ蕎麦の完成! 濃厚なカニのあとにつるっといけて、あっさりとした蕎麦はたまらない組み合わせだ。

メニュー
・ベニズワイガニ
・とりネギ蕎麦
・塩サバの焼いたん
・煮物
 エリンギ、タケノコ、こんにゃく
・野菜
 生:ピーマン、ブロッコリー 茹で:ほうれん草、にんじん
・黒豆
・キウイ

さらに別の鍋には――
エリンギとタケノコとコンニャクの煮物
エリンギ入りの煮物があって、
皿に盛られた生ピーマンに生ブロッコリー、茹でほうれん草とニンジンのサラダ
いつもの野菜が盛られた皿や、
皿に乗せた、焼いた塩サバ
焼いた塩サバまで用意してある! さらに――
皿に乗せた黒豆とキウイ
正月の黒豆が乗った皿に、おばあの田舎から送られてきたキウイを添えて食卓に戻る。

カニの味は最高だったし一匹丸ごと平らげたけど、おばあの料理も目の前にしたら、やっぱり食べずにはいられない! すっかりお腹いっぱいになって、カニの殻や皿を片付ける前に、僕もおばあのように目を閉じた。