バレンタイン特別メニュー!? 昨日の鍋の食べ残し

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メニュー
・塩ちゃんこ鍋
春菊、豚肉、もやし、えのき、マロニー、「〆まで美味しい地鶏塩ちゃんこ鍋つゆ ストレート」
・野菜
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

今日は夕飯を、おばあの家で食べる。そう心に決めて僕は朝、仕事に出かけた。

昨日はおばあの家で、というより夕飯そのものが食べられなかった。その日じゅうにやるべき仕事が次から次に出てきて、気がついたもう夜中。なんとか終わらせることができたけど、おばあに連絡するのを忘れていた。夕飯をつくって待ってくれていたはず。もう寝ている時間だし、電話するのはかえって迷惑だ。

用意してくれていた夕飯が、マグロのトロとか、その日じゅうに食べなければいけないスペシャルな料理だったら、おばあのほうから僕の所在を確認する電話があっただろう。それがないということは、温め直して次の日も食べられる料理か、うどんやラーメンのように僕がおばあの家についてから調理をはじめるものに違いない。

そして今晩、追加の仕事やトラブルに見舞われることなく、僕はいつも通りの時間におばあの家に来ることができた。居間では火が着いた灯油ストーブの上に土鍋がのっている。昨日は鍋だったのだ。

僕が席に着くと、おばあはふきんを手にして土鍋を持ち、テーブルの鍋敷の上にのせた。そしてふたをゆっくりと持ち上げる。内側に溜まっていた湯気がふわっと消えて、鍋の中身があらわになった。

しなびた春菊、ちぎれたマロニー、くずれた豆腐、固そうな豚バラ肉、そしてもやしがぐちゃぐちゃに混ざり合っている。僕は何を期待していたのだろう。

これまでも鍋をした次の日には、残った汁でまた鍋をしていた。2日めでも最初の日に食べたものと比べ、見た目も味もほとんど同じだった。でもそれは、土鍋の中身を一度ぜんぶ平らげ、具材を新しく追加していたからだ。

僕が連絡せずに夕飯を食べに来なかった昨日、おばあは鍋をつくり、ひとりで食べたのだ。土鍋いっぱいの具材をおばあがひとりで食べ切れるわけもない。おばあの好物のキムチ鍋ならもっと減っていたかもしれないが、今回の味はあまり好みではなかったのか、多くが残ってしまったのだ。それを灯油ストーブの上で温め直したものが今日の夕飯になった。

鶏がらだしのつゆは僕好みのあっさりで、味は見た目ほど悪くなかった。ただすべてが煮込まれすぎていた。とはいえ、いつも通り腹は減っていたので、僕は半分ほど食べて夕飯を終えた。

正月や節分、クリスマスも、おばあは世間で騒がれるイベントには敏感で、年に一度の特別メニューをつくってきた。おばあからもらうチョコレートなんていらないけど、今日もちょっと変わったメニューがあるものだと何となく思っていた。それが、おばあの食べ残しの煮込みすぎた鍋だったなんて。

僕は食べ終えた食器を、流し台に持っていった。そしてテーブルに戻ってくると、僕の席に「カレ・ド・ショコラ」と書かれたオレンジ色の小箱が置かれていた。文字の横の写真は、褐色で四角い、甘そうな、チョコレートだ!

箱を眺めていると、
「なんや、いらんのか。それ、うまかったで!」
とおばあがいった。

こんなのいらん! といいそうになったけど、今日は満腹になるまで夕飯を食べていなかったからデザートにちょうどいい。せっかく用意してくれたものを断るのも悪い気がする。

「いらんかったら食べるから、そのまま置いとってええで!」
とおばあがいってチョコレートの箱に手を伸ばす。それよりも僕が素早く引き寄せて箱を開け、金色の包を開き、うすい板状のチョコレートを口に入れる。ストーブの近くに置いていたらしく、チョコレートは少しやわらかく、苦い余韻を残し、すぐに溶けてなくなった。