ごおおっと風を切りながら、新大阪に向かう新幹線のぞみが、品川駅のプラットホームに入ってきた。久しぶりの東京出張を終えた僕は、これから時速300キロ近いスピードで東海道を駆け抜け、おばあが待つ大阪に帰る。
ゆっくりとドアが開くと、子どものころのわくわくする感じがよみがえってくる。小学生のとき、おばあの家に行くためにはじめて一人で新大阪行きの新幹線に乗った、ちょっとの不安とそれに勝る楽しさが入り混じった気持ちだ。
新幹線ではネットも読書も仕事もしない。いつでもどこでもできることはやめて、せっかくの旅を満喫したいからだ。子どものころのようにほとんど揺れない車両の、適度な固さのシートに座り、目まぐるしく通りすぎる車窓の風景をぼんやりと眺めていたい。それに今回は別の楽しみもある。品川駅の売店で買った――
黄色いパッケージのーー
崎陽軒のシウマイ弁当だ! 関西には売っていないこの弁当を、東京に来たときに必ず食べようと決めていた。
というのも、近ごろおばあが、なぜか晩ごはんにやたらとシュウマイを出すようになり、それまでなんとなく口にしていたシュウマイのおいしさに改めて気づかされたからだ。そこで90年以上のロングセラーという、崎陽軒のシウマイを是非とも味わってみたかった。
ほぼ満席ののぞみが動き出すと、弁当のフタを開けた。僕は三列シートの窓際に座り、隣の席ではビジネスマン風の同世代の男性が、さっそくパソコンを開いて仕事をはじめている。その真横で弁当をほおばるのは何だか悪い気もするけど、僕らは仕事で新幹線に乗った者同士。通じるものがあるはずだと軽く会釈をすると、相手も返してくれた。そこでようやく箸を割る。
マンガ『孤独のグルメ』では、紐を引くと熱が出て温まる“ジェットボックスシウマイ”を、主人公が車内で食べてしまい、においが充満して気まずくなるという話があった。でもこのシウマイ弁当は、冷えているからかほとんどにおいがしなくて助かった。
弁当の中身は、小梅と黒ゴマが乗った俵型のごはんと、意外と種類の多い具材が詰まっている。シウマイは5個。そして、からしと醤油もついているのでーー
ひとつひとつのシウマイの上に垂らす。こうすれば他の具材に余計な味がつかないし、すべてのシウマイを存分に味わえそう。ちょっと几帳面でからしが嫌いじゃないなら、この食べ方はおすすめだ。もうやっている人は多そうだけど。
ひとつ口入れると、中身がぎっしりと詰まった弾力ある歯ごたえ。においはあまりしないけど、肉のうま味がしっかりと感じられる。からしと醤油がからんだ濃いめの味付けは、ごはんのおかずとして申し分ない。
弁当の定番の3品、鶏の唐揚げとたまご焼き、カマボコはそこにいるだけで安心する名わき役だ。これがあるからシウマイや他の見慣れない具材が引き立ってくる。
大きめの肉のような塊は、箱の原材料表示によると、“鮪漬け焼き”。噛めば噛むほどマグロのうま味が染み出してきて、これもごはんにぴったりだ。
オレンジ色の丸いものをかじってみると、さわやかな甘さがある。“あんずシラップ和え”だ。ありきたりなものではなく、この弁当にぴったりな一口サイズのデザートがついているのもうれしい。
角切りの細かな具材は“筍煮”だ。甘辛い味付けで絶妙な歯ごたえもクセになる、ごはんに乗せても箸休めでも、シウマイと一緒でもいける万能選手。ふと、おばあがよくつくるタケノコの煮物を思い出した。
僕はおばあに、品川駅で土産を買ったのだった。選んだのはもちろん、崎陽軒のシウマイ! 弁当ではなく、シウマイばかりが15個入ったやつだ。これをシュウマイにハマっているおばあに食べさせたい。明日の晩ごはんはメインのおかずは用意しなくてもいい、おいしい土産を持って行く。そうおばあに電話で伝えてある。グルメなおばあがどんな反応をするのか楽しみだ。
そんなことを考えながら味わっていたシウマイ弁当は、はじめて食べたのに懐かしい味がした。
食べ終えたあとに箱を片付けていると、隣の席から聞こえていたノートパソコンのキーを打つ音が止まった。
そして、
「シウマイ弁当、どうでした?」
と聞かれたので、素直な感想を答えた。僕が写真を撮っていたから、はじめて食べたのだとわかったそうだ。是非食べたいという相手の口調は、東京では聞くことがなかった関西弁だった。