おばあには「アレルギー」が通じない。甘エビの刺身を焼く理由


おばあには「アレルギー」が通じない。甘エビの刺身を焼く理由

マグロと白身魚、甘えびの刺身など、おばあが用意した晩ごはんのメニュー

メニュー
・刺身
マグロ、タイ、甘えび
・冷奴
絹ごし豆腐、かつお節
・味噌汁
絹ごし豆腐、ナス
・白菜キムチ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

生のえびを食べると、唇が2倍に腫れあがった。舌、硬口蓋から、喉の奥にかけて、えびが通過した箇所がイガイガしたかと思うと、強烈なかゆみが襲う。いくら水をがぶ飲みしても、まったくおさまらない。それどころか、かゆみはひどくなる一方だ。腕を突っ込み、喉を裏返し、高圧洗浄機のジェット噴射で洗い流したくてたまらない。

ようやく症状がおさまり、僕は好物だった、生のえびを二度と食べないと誓った。それが10年ほど前のこと。僕は20代の前半で突然、生えびのアレルギーを発症してしまったのだ。

もう甘えびも、小さいころに食べた伊勢海老も、生では口にすることができない。

舌の上ではやわらかく、噛めばぷりっとした歯ごたえ。断面からにじみ出すように、口中に広がる甘みが、醤油の風味と塩気に引き立てられる。そして飲み込むときのとろっとした感触。今でも鮮明に、生のえびを食べたときの感じを思い出せる。

食べ物のアレルギーは、最悪の場合、呼吸困難になって命を落とすこともある。僕は生のえびを食べたところで、死ぬほどかゆくはなっても、本当に死ぬことはない。回転寿司屋に行くと、レーンにのった甘えびの寿司が、目の前を通過する瞬間、つい手を伸ばしそうになる。甘えびが視界に入るたびに、いちいち葛藤してしまうことが苦痛でわずらわしく、食べ物に対するいやしさに気づき、自分が嫌になる。

甘えびが流れてきて、自己嫌悪におちいるので、回転寿司屋にはもう何年も足を踏み入れていない。近所のスーパーの鮮魚コーナーを通過するときも、生えびがありそうなところからは目をそらしている。

そういう僕の事情を、おばあには何度も話しているのに、生のえびは見るのも勘弁してほしいといっているのに、どうしておばあは今晩、ぷりぷりで甘くておいしそうな甘えびの刺身を、僕の目の前に出したのだ!

僕が生のえびを食べるとどうなるか、喉をかきむしり、もだえ苦しむ仕草などを交え、できるかぎりの迫真の身振りで、おばあに訴えた。すると、
「そんなんいうなら、食ったるわ!」
とおばあは声を上げ、テーブルの向かい側から箸を伸ばしてきた。

僕は刺身の皿をつかんで頭の上にかかげ、おばあの箸をかわした。「そんなんいうなら」っておばあは全然わかっていない! それだと食べ物の好き嫌いで、僕がわがままをいっているだけみたいじゃないか! 生のえびが嫌いだとはいっていない! 食べたいけど、体が拒絶して口にすることができないのだ。

だけどおばあは、いくら説明してもわかってくれない。どうやらおばあは僕が、おばあの用意した料理に文句をいっているとしか思っていないらしい。僕以上にムキになって、体をテーブルに乗り出し、持ち上げた皿に箸を伸ばしてくる。

刺身の皿を持ったまま、僕はイスから立ち上がり、おばあの追撃をかわして台所に向かった。

生のえびのアレルギーなので、甘えびの刺身をフライパンで焼く

口で説明してだめなら、実際にどうすればえびが食べられるようになるのか、見せてやるしかない。

僕はフライパンがのったままのガスコンロに火をつけた。表面がじゅうぶんに温まったところで、甘えびの刺身を投入する。

フライパンには、魚や肉が焦げつくのを防ぐ、クックパーという銀色のシートがしいてある。茶色っぽい油のようなものが残っているのは、僕が昼に食べるおにぎりの具材として、おばあが鮭を焼いていたからだろう

鮭の油がはねるフライパンの上で、透明感のあった甘えびの身は、すぐに白っぽくなり、尻尾につくほど丸まった。しっかり火が通れば、かゆくなることはない。焼けたえびを皿に戻し、僕は居間に引き返した。

甘えびの刺身を焼いたもの
「えびは生やと、かゆくなって食べられへんけど、こうすれば食えるんやで!」
おばあに向かっていいながら、僕は焼いた甘えびをひとつ箸でつまみ、尻尾ごと口に放り込んだ。表面は油で揚げたようにほどよく締まり、ぷりっとした食感も甘みもちゃんと感じられる。焼いた甘えびははじめて食べたけど、これはこれでおいしい。でもやっぱり……記憶の中の生の味にはかなわない。

「焼いたのがええなら、そういえや!」
おばあが怒鳴った。ちがう! おばあ、ちがうんだ。本当は、生のほうが好きなんだ。だけど、アレルギーだから、かゆくて食べられないんだよ。でも焼けば平気さ……なんて、いったところで、おばあはアレルギーについても、なぜか焼くとえびが食べられるようになることについても、理解できないだろう。僕にできることは、
「そんなん、ちゃうわ!」
おばあに負けず声を張り上げることだけだった。

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