東京出張特別編!新橋の人気店をはしご。岡むら屋のデラ肉めしと、纏の平子煮干そば

曇りの日に遠くに見える東京タワー。特別展望台は工事中で大展望台のみ公開中

日比谷線で東京タワーに最も近い、神谷町駅までやってきた。スマホで公式サイトを見てみると、東京タワーには2つの展望台があるという。地上150メートルの高さの大展望台と、さらに100メートル高いところにある特別展望台だ。はじめて東京タワーに登ることだし、どうせなら高いほうから東京の街を一望してみたい。ところがページをよく見ると、特別展望台は創業以来のリニューアル工事中で営業していないという。

ネットであらかじめ情報を検索してしまうと、展望台で撮った広角やパノラマの風景写真が出てくるはずだ。それを目にしてしまい、実際に東京タワーに登ったときに得られる感動が薄れてしまう、なんていう事態は避けたい。それに年中無休で夜遅くまでやっていると友人から聞いていたので、グーグルマップでアクセス方法さえ検索すれば十分だった。

さらに高いところに展望台があると知ってしまった以上、営業中の大展望台から景色を見ても、もはや満足できないだろう。むしろ余計に見たくなって、またいつか登ることになるに決まっている。

空を見上げると、雲がどんより一面に広がっている。ぽつ、ぽつと冷たいものが顔に当たった。僕は東京タワーに背を向けて歩きはじめた。夕暮れどきの空が時間とともに暗くなっていくのがわかる。

僕はグーグルマップで徒歩圏内に見つけた“新橋”に向かっていた。その2文字を見たとき、自分が久しぶりにスーツを着ていて、日本経済の中心地である東京まで仕事をしにきたことをあらためて意識させられた。

人と会う仕事は午後イチからだった。大阪からわざわざやってきて万が一、満腹で眠くなり、集中力が途切れるとまずい。僕はものを食べるとすぐに眠くなるので、ひとりで働いているときは食後に短い昼寝が欠かせない。今日は寝ている余裕なんてないので、昼食を抜いてリンゴジュースだけで済ませたのだった。そのことを思い出し、肩の力が抜けたのと同時に空腹感におそわれていた。

拡大したマップは飲食店のマークだらけだった。新橋といえばスーツを着こなした東京のビジネスマンたちが、仕事終わりに飲み歩いたり、腹を満たして明日への活力を養う場所だ。手頃な値段でうまい料理を出す店が揃っているのに違いない。

サラリーマンが歩く新橋の路地。飲み屋が軒を連ねる。

大通りから新橋駅に向かって折れた路地には、赤ちょうちんや電光掲示板が立ち並んでいた。仕事終わりらしき人たちが、大通りよりもゆっくりとした足取りで行き交っている。高層ビルの谷間よりもあたたかみがあって落ち着くけど、今は焼き鳥屋や居酒屋、スナックのような酒を飲む店に用はない。とにかく腹が減っているのだ。

新橋の「岡むら屋」の外観。味が濃くてボリュームたっぷりの“おとこめし”、肉めしが看板メニュー

また広い通りに出て、スクランブル交差点を渡ったところで、店の前ののぼりの文字が目に飛び込んできて思わず足を止めた。「大盛 特盛 山盛 おとこめし」とある。食べられるのは「新橋名物 肉めし」だそうだ。僕は吸い寄せられるように『岡むら屋』の店内に足を踏み入れた。

テーブルもカウンターもほとんど満席で、いずれもお一人さまのスーツ姿の男たち。それぞれが丼ぶりに向き合い、ある者はスマホを片手に具材を箸でつまんで口に入れ、また別のある者は器を持ち上げ一心不乱に中身をかき込んでいた。

ちょうどひとつ空いたカウンター席に通された。メニュー表を見ると、デラ牛めし(590円)がおすすめだという。

「岡むら屋」のデラ肉めし。通常の肉めしのトロ肉と豆腐に加えて、大根とたまごが追加でトッピング

運ばれてきたデラ牛めしは、まさに「おとこめし」の名に恥じない姿をしていた。半丁はある豆腐や大根と思しき塊、ゆで卵、肉、こんにゃくが、ごはんの上にひしめいている。どれも真っ黒になるまで煮込まれていて、醤油のにおいが立ち上り、濃いめの味付けであることが口に入れなくてもわかる。

「岡むら屋」のデラ肉めし。味が染みた玉子を割ったところ。

たまごを割ると、白身はもちろん、黄身にまで茶色い味付けが染み込んでいるように見える。家庭のおでんなら3日は煮込まないとこうはならないだろう。大根に箸をいれると、形を保っているのが不思議なくらいやわらかく、溶けるように崩れた。味は思った以上に濃い。大根というより、醤油ベースの煮汁をそのままゼラチンで固めたみたいだ。続いて白い部分が残る豆腐を口にいれると、大根に染み渡った味と混ざり合う。それでもまだ濃いので、たまらずごはんをかき込む。

たまごもやはり、しっかり味が染みている。ただしどうしても茹でた黄身がパサつくので、ここでも水分をたっぷり含んだ大根が活躍した。大根を食べるとまたごはんが食べたくなり、いつの間にか丼ぶりを持ち上げてかき込んでいた。

肉はほとんどがホルモンだ。焼肉だとなかなか噛み切れないシマチョウも、よく煮込まれていてやわらかい。これなら総入れ歯のおばあも難なく食べられる。大根もとろけるようだし、やわらかいものの代名詞、豆腐も塊で入っている。醤油の効いた濃い味付けもおばあ好みだ。食べ過ぎると持病の高血圧が悪化しそうで怖いけど、一回くらいなら食べさせてみたい。東京の「おとこめし」は、おばあも楽しめる味だ。今ごろおばあは、大阪で夕飯を食べているところだろう。

『岡むら屋』を出た僕は、別の飲食店を求めて歩きはじめた。デラ肉めしはたしかにボリュームがあった。でも昼食を抜いた僕の食欲はまだ満足していない。最近、食べる量が増えて胃袋が大きくなっているのだ。太ってきた僕の体型と健康を気にして、おばあからはおかわり禁止令が出ている。だけど大阪から遠く離れた東京に僕を止める者はいない。デラ肉めしを腹に収めた直後に、新橋で最も人気があるラーメンを食べてやる。グーグルマップを開くと、特にコメントが多く評価も高いラーメン屋がすぐに見つかった。

新橋で人気のラーメン屋「纏」に続く通路。少しわかりにくい

マップに表示された店舗の前を何度か通り過ぎた。駐車場の横にあるビル沿いの細い通路の奥にある『纏』の店舗が見つけられなかったのだ。お昼どきになるとその通路が行列で埋まるのですぐに分かるらしいけど、今は夕飯のピークとも少しずれている。

新橋で人気のラーメン屋「纏」の入り口

それでも10席ほどのカウンターがいっぱいだったので、しばらく外で待つことになった。その間に、入り口の外に貼ってある“おしながき”の先頭にある平子煮干そばの食券を購入。いちばん奥の席に通された。

新橋のラーメン屋「纏」の平子煮干そば750円

実はデラ肉めしの後にラーメンが一杯ぶん腹に収まるのか心配だった。だけど目の前に注文したラーメンが置かれると、僕はすべて平らげてしまうだろうと確信した。ひときわ目を引くピンク色のチャーシュー、自家製らしい細長いメンマや板のり、刻みネギ、三つ葉が彩りを添え、透き通ったスープからは、煮干しと醤油が合わさった食欲をそそる香りが漂ってくる。ひと口すすると、苦味や生臭さはなく、少し酸味のある凝縮された煮干しのうま味が口の中にひろがった。

チャーシューはスチームで調理したのだろうか。まったく焼き目はなく、ジューシーで、ピンクの肉の色をしているのにほどよい濃さの味が中心まで行きわたっている。「ラーメンはどれも同じ」といっていたおばあも、ダシの味にはうるさいし、やわらかい肉には目がない。ここのラーメンなら違いがわかるはずだ。

細めのストレート麺をすすると、スープも吸い上げられてくる。コシのある麺の歯ごたえを楽しみ、スープと一緒に飲み込むと今日の疲れが癒されていく気がした。ただしおばあと来るなら、麺は柔らかめにしてもらったほうがいい。