おばあの得意料理、鶏のもも焼きは、肉はジューシー皮はパリッと…ぜんぜんしてへんやんか、おばあ!

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夕方にはもう秋の虫が鳴いているのに、昼間の気温は30度越え。終わらない暑さに体力がうばわれて、夕飯の時間が近づくと、秋の虫と一緒に空っぽのお腹が鳴り出した。

空腹になると頭がさえて、集中力が増していく。窓の近くで鳴くコオロギの声が遠のいて、またはっきり聞こえてきたときには仕事がきりのいいところまで片付いていた。空腹だったことも急に思い出し、おばあの家に急ぐと――
食卓に着いて目をつむって居眠りしている祖母・おばあ
食卓に着いたおばあが目をつむってウトウトしてる。僕が来るより一足早く晩ごはんを平らげて、眠くなったらしい。

もともと深く考えるより、直感にしたがって生きてきたおばあだけど、年々、その傾向が強くなっている。お腹が減ればすぐ食べるし、眠たければその場で寝てしまう。歳をとって頭が衰えてきたというより、人間の深いところにある動物的な部分が少しずつ目覚めているみたいだ。

それにおばあも長引く暑さで、疲れているのに違いない。このまましばらく休んでもらおう。そう思っていると――
食卓に着いている祖母・おばあ
おばあが目を開けた。
「眠いなら、そのまま寝ててええよ」
と僕が言うと、
「眠くなんかないわ」
おばあはなぜか意地を張って否定する。そして―ー
あくびをしている祖母(おばあ)
大きなあくびを一発……って、やっぱり眠たいんかい!

「それより何してんねん。さっさと食べや」
とおばあが急かす。今日の料理には自信があるらしい。だから早く食べろというわけだ。

それもそのはず、テーブルに乗っているのは、かなり久しぶりに作ってくれたおばあの得意料理で僕の大好物――
サラダと一緒に皿に乗せた、焼いた骨付きの鶏のもも肉
鶏のもも焼き!

さらに下に敷いてあるサラダは、いつものミニトマトに加え、赤いパプリカと緑のピーマンも添えられたスペシャル版! おばあの力の入れようが伝わってくる。

いつも鶏のもも焼きは、肉はふっくらとジューシーで皮はパリパリの最高の焼き加減……って、この皮、一ミリのコゲどころか、キツネ色の焼き目もないやんか、おばあ!

そういえば……この前おばあは、フライパンで焼いて作るはずの『冷凍ギョーザ』を電子レンジで温めて出した。まさか……この鶏のもも焼きも!? いや、そんなことができるはずは……。

この大きな鶏のもも焼きが、電子レンジに入ったとしても、中で回転しそうにないから半分くらい生焼けになってしまう。料理上手のおばあが、そんな失敗をおかすわけない!

おばあを信じてガブっとかじると……内側の肉は生……じゃない! ちゃんと中まで火が通り、肉汁があふれ出てくる。その肉汁はいつもより多く、ポタポタとしたたり落ちてくる。

低温でじっくり焼いたようで、香ばしいパリパリ感はなくても、肉のプリプリ感とジューシーさが際立っている。味付けは変わらず塩のみだけど、おばあが焼けばほかに何の味付けも必要ない!

そして別の皿には、これも僕の好物―ー
皿に入れたブリのアラの煮付
『ブリのアラの炊いたん』まで! こちらも味付けはあっさりとした塩とダシのみ。ブリのうま味と脂の甘さで、ごはんがどんどんすすむ。

メニュー
・鶏のもも焼き
・サラダ
野菜:キャベツ、ピーマン、赤パプリカ、ミニトマト、ブロッコリー
・ごはん

「おいしかった!」
と感想を告げようと向かいの席に目をやると、おばあはまたスヤスヤと居眠りしていた。

その様子を見ていると……これでおばあも僕も、まだまだ暑い日が続いても大丈夫! という安心感につつまれて、眠気がやってきた。でも僕はまだ、おばあみたいに直感にしたがうだけでは生きられないとも思った。

眠気をこらえて立ち上がり、すぐに台所に食器を持っていき、おばあの食器と一緒に洗いはじめた。集中力が増し、夕方の虫の声のように居間のテレビの音が遠のいて……はいかなかった。夜に眠るまで、食後にやってきた安心感と眠気はしっかり続いていた。