🍙おにぎり(さいしょに)

祖母(おばあ)が毎日、孫(僕)のために作ってくれるおにぎり。

僕は毎日、祖母(おばあ)がつくった晩ごはんを食べる。おばあは晩ごはんのあと、大きなおにぎりを2個つくる。それを僕が近くの自宅に持って帰って、次の日の朝と昼にひとつずつ食べる。晩ごはんまで、ほかのものはあまり食べない。もう7年くらい続けている習慣だから、今までに5000個を越えるおばあのおにぎりが僕の腹の中に消えた。

おばあは好きなものを食べるためには努力を惜しまない。農家の生まれだからなのか、ごはんに対する熱意は特に強い。米は毎年、知り合いの農家から一年分を直接購入する。そして米を炊くのはガス釜だ。おばあが厳選した米を、強い火力で一気に炊いたごはんでつくったおにぎりは、いくら食べても食べ飽きない。

台所でおにぎりを作る祖母(おばあ)

一年ほど前からおばあは、米に少し麦を混ぜた麦ごはんでおにぎりをつくるようになった。麦が血圧を下げると、テレビの健康情報番組で知ったことがきっかけだ。おばあは降圧剤なしでは生きられない、かなりの高血圧症患者なのだ。主食を麦ごはんに変えるだけで血圧が下がるなら、薬の量が減り体への負担も軽くなるから一石二鳥。病院で血圧を測ると、確かに効果はあるようだ。

ところがおばあは、麦ごはんの食感が気に入らないようで、「よくこんな、ゴムみたいなるもんが食えるな」と、僕にしょっちゅう文句を言う。僕は「これが好きなんやから、明日も麦ごはんにしてくれ」と言い返す。するとおばあはそれ以上何も言わず、次の日も麦ごはんを炊く。

実は、僕も麦ごはんが嫌いだ。甘くてふっくらした米の中で、確かにゴムのような麦の食感がきわ立っている。それでも、おばあが長く生きられるなら、麦だろうが何だろうがいくらでも噛み砕いてやる。おばあの麦ごはんは、よその麦ごはんよりうまいのだ。これからも僕は朝と昼にひとつずつ、おにぎりを食べ続ける。おばあの命がある限り。