いくつになっても孫は子ども? 和牛と刺身、端午の節句の特別メニュー

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祖母(おばあ)が作ったすき焼き

くたくたに煮込まれた牛肉やしらたき、ねぎなどの具材が、底の平らなすき焼き鍋の中で絡まり合っている。見るからにこのすき焼き、今晩つくったやつじゃない。昨日、おばあがひとりで食べたものを、温めなおしたのに違いない。

僕は昨日、おばあの家で晩ごはんを食べなかった。外で食べてくることはあらかじめ伝えていたので、おばあはひとりで鍋をつつくことをわかったうえで、すき焼きを用意したことになる。すき焼きは僕も大好きだけど、ひとりでつくって食べようとは思わない。特に家族用の鍋にたっぷりつくると、食べている最中に空しい気分になりそうだし余るのは確実だ。

それでもおばあは昨日、どうしてもすき焼きが食べたかったらしい。昨日たくさんつくっておいたのは、今晩の食事の準備を楽にしたかったからだろうか。

「昨日、ひとりすき焼きしたんか?」
テーブルの向かい側のおばあの聞くと、
「そんなん、どっちでもええやろ!」
となぜか怒られた。おばあに質問すると突然、機嫌が悪くなることがある。僕が何かを聞くと文句をいっていると受け取るのか、それとも、もともと虫の居所が悪かっただけなのか。どちらにしても、機嫌が悪いときのおばあはそっとしておいたほうがいい。

つくりたてじゃなくて見た目もいいとはいえないけど、すき焼きは僕の好物だし、今晩はメイン級のおかずがもう一品ある。今晩は黙って、料理を味わうことに専念しよう。

すき焼きや刺身など、祖母(おばあ)が作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・すき焼き(2日目?)
牛肉、春菊、長ねぎ、しらたき、えのき
・マグロとカンパチの刺身
・たけのこと糸こんにゃくの煮物
・えんどう豆のたまごとじ
・酢の物
タコ、ワカメ、きゅうり
・サラダ
生:ミニトマト、春キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

祖母(おばあ)が買ってきたマグロとカンパチの刺身

新鮮で質のよさそうな刺身が2種、真っ白いツマをしいた皿の上に乗っていた。おばあが信頼を置く目利きの店主がいる、商店街の魚屋で買ってきたものだろう。

切り口の角が立っていて、黒ずみもドリップもまったくない、ルビーのような輝きを放つマグロ。さっそく口に入れると、スジの部分からばらばらにほどけ、軽い力でねっとりとしたペースト状になり、口じゅうでマグロのおいしさを感じられた。蛍光灯の光を存分に照り返すカンパチは、見た目以上に脂が乗り、ぷりぷりとした食感が楽しめた。

すき焼きを小皿に取り分けたもの

すき焼きは2日目だろうけど、肉の味はほとんど落ちていなかった。熱を加えすぎていそうなのに赤身はまったく固くない。細かな脂のサシが入っているからだ。脂が多めだからといってしつこくなく、サラッとしていて甘味もある。これは、おばあがたまに買ってくる、ちょっといい和牛の肉!

前日の残りでも、この牛肉さえ入ったすき焼きがあれば、僕はじゅうぶん満足できるのに。おばあは奮発していい肉を買ったうえに、上質な刺身まで食卓に並べている。何かいいことでもあったのか。いや、さっきの機嫌の悪さからすると、そういうわけでもなさそうだ。なのに他のおかずも充実している。

タケノコと糸こんにゃくの煮物

旬のたけのこと糸こんにゃくの煮物や、

えんどう豆のたまごとじ

えんどう豆のたまごとじ(今晩のたまごは少な目)、

タコとワカメときゅうりの酢の物

タコときゅうりの酢の物まである。

祖母(おばあ)がいつも出しているサラダ

サラダのミニトマトは果物みたいに甘かった。

食事を終えてしばらくすると、おばあは空の食器を持って台所に向かった。食卓に戻ってきたおばあは、透明な袋に入った緑の細長いものを手にしていた。

子どもの日のちまき(粽)

袋には折り紙の兜と金太郎っぽい子どものイラストの下に、「子供の日」の文字。そうか、今日は端午の節句だった。だからおばあは豪勢に、和牛の肉と刺身をいっぺんに出してくれたのだ。たしか去年は、マグロの刺身と鰻の蒲焼だった。

30代独身の僕にとっては関係ない日だから、こどもの日の存在なんて忘れていた。だけどおばあにとって孫の僕は、今でも子どもなのだった。

子どもの日の粽

こういう笹の葉で包んだちまきが出てきたのも去年と同じだ。

子どもの日の粽の中身

葉っぱを開くと現れる白い餅は、ひと口かじるとさわやかな笹の香りがする。甘みが強く、甘党のおばあも好きそうな味。だけどもう僕の分しかない。袋の大きさからすると、あと2、3本は入っていたはず。おばあは昨日、すき焼きの具材と一緒にちまきも買ってきて、食後に食べたのだろう。そして今日もおやつに食べた。たぶんそういうことだ。確かめたいけど、質問をするとまた怒られてしまう。
「今日のめし、うまかったわ。このちまきもええな」
僕は今晩のメニューの感想をつぶやいて、ちまきをかじった。