いくつになっても孫は子ども?端午の節句特別メニュー!うなぎとマグロと笹の葉のちまき

スポンサーリンク

メニュー
・うなぎの蒲焼
・マグロの刺し身
・なんきんと芋の炊いたん
・なます

大根、にんじん、サバ
・みそ汁(2日め)
豆腐、白菜、わかめ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

はじめて見る贅沢な組み合わせだ。うなぎの蒲焼きの隣にマグロの刺身が並んでいるなんて。料理屋でうなぎを食べたことは今までで一度しかないけど、そこのメニューには刺し身付きの定食なんてなかった。外食だったら、和食が何でも揃う高級料亭にでも行かないとお目にかかれないセットだろう。

マグロの刺身は昨日も食べた。スーパーの特売品だったらしく、いつもより鮮度の落ちたちょっと残念な味だった。それでおばあはリベンジとばかりに、魚の質で勝負する商店街の魚屋で、あらためてマグロの刺身を買ってきたのに違いない。発色が鮮やかでドリップもなく見るからに新鮮そうだ。

ひと切れを醤油につけて口に入れると、舌に絡みつくもっちりとした食感。舌と上顎のあいだで、水分がにじみ出ることなく、ペースト状にすり潰されていく。甘味のある濃厚なマグロの味わいが後を引き、たまらずごはんを口に放りこんだ。やはりこのマグロは、商店街の魚屋が扱う上質なものだ。煮物やなます、みそ汁などもあるし、マグロの刺し身をメインにすれば十分に立派な献立になったはず。

そこになぜ、おばあはうなぎの蒲焼を加えたのだろう。もちろん家ではつくれないから、魚屋かどこかで買ってきて電子レンジで温めたものだ。手間はかからないけど、マグロの刺し身以上に値段が張る。一尾を2つに分け、僕の皿には大きめに切った頭の方、おばあの皿には小さめの尻尾の方がのっている。なぜ同じ大きさに切り分けなかったのだろうか。うなぎはおばあの好物なのに。

うなぎは料理酒をまぶして温めたようで、ふっくらとしていて香ばしいかおりが引き立っている。一年ほど前にテレビの情報番組でやっていた、買ってきたうなぎをおいしく食べる方法をおばあがちゃんと覚えていてうれしくなる。タレをたっぷりつけたうなぎを、ごはんにのせてかき込む。ひと切れで茶わん一膳ぶん食べられそうだ。

最近、食べ過ぎで太り気味の僕は、おばあからごはんのおかわりを禁止されている。だけど今日は、うなぎもマグロも同時に並べたおばあが悪い。両方のおかずをおいしくいただくため、2杯めもゆるしてもらおう。思い切りよくうな丼をほおばっていると、
「ごはん、おかわりするつもりか! そないに食べるなや!」
とおばあが声を荒げた。おばあのせいや! うなぎもマグロも一緒に出したおばあがあかんねん! ごはんを2杯くらい食べさせえや! といい返したかったけど、口の中のものが飛び散りそうだったので黙っていた。

するとおばあが続ける。
「今日は、ちまきも買ってきとるから、あとで食べや。腹いっぱいにしたら入らへんで」
「ちまきって何や?」
と口の中のものを飲み込んだ僕は答えた。おばあは席を立ち、台所から緑の葉でくるまれた細長いものを3つ持ってきた。
「これや。見たことあるやろ。子どもの日に食べるんや」

子どもの日に、おばあは豪勢にうなぎとマグロを一緒に出した。しかもうなぎは僕のほうが多かった。もしかして“子ども”というのは僕のことなのか! おばあにとって、三十路を過ぎた孫でも、まだ子どもだということか……。

腹八分目で食事を終えて、ちまきを手に取る。イグサだという紐状の植物をほどき、葉っぱを外すと、白いモチのようなものが出てきた。ひと口かじると簡単に千切れ、さわやかな笹の香りが鼻に抜けた。歯にべたべたとひっつくことなく噛み切れて食べやすい。強い甘味と独特な笹の香りが癖になる。一気に食べ終え、もう一本を手に取ると、
「2つも食うなや。家に持って帰って明日食べえ」
とおばあがいった。たしかに砂糖をふんだんに使った甘い餅、ちまきは太りやすそうだ。控えておかないと子どもどころか、このままでは中年のおじさんの太鼓腹に一直線だ。

残った2つのちまきのうち、ひとつは持って帰るとして、もうひとつはおばあにあげよう。うなぎを多めにくれたし、このおいしいちまきは、甘いものに目がないおばあにも味わってほしい。僕がそのように告げるとおばあは、
「もういらん。晩ごはんの前に食うたんや」
「……いくつ食ったんや?」
「2つや」
おばあは悪びれもせずに答えた。僕には2つも食うなといっておいて、自分は食ってるやんけ! と思ったけど、うなぎとマグロに免じて、何もいわないことにした。

おばあは、すでに食事の前にちまきを食べていたのだ。味を知っているおばあは、夕飯まで我慢できなかったのだろう。ごはんのおかわりも2つめのちまきも我慢した僕より、おばあのほうが内面は抑制のきかない子どもみたいだ。僕は帰りがけに、嫌味のひとつでも口にしたかったけどぐっとこらえ、かわりに「今日の晩ごはん、うまかった」と大人の対応を実践した。