おばあが後ろめたくなるほど時短で簡単!酢鶏(酢豚ではない)とシュウマイ

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メニュー
・酢鶏
鶏の唐揚げ、パプリカ(赤、黄)、玉ねぎ、たけのこ
・シュウマイ(冷蔵)
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

おばあはよく酢鶏をつくる。時間と手間を短縮するため、揚げた豚肉の代わりに惣菜屋の鶏の唐揚げを使っているので酢豚ではなく酢“鶏”なのだ。頻度はひと月に一回。日付は前後するものの、測ったように毎月一回、必ずつくる。不思議に思っておばあの家のカレンダーをじっくり眺めてみても、酢鶏をつくったを日を示すような印は見つからなかった。

今日も酢鶏が出た。二色のパプリカの鮮やかな彩りや、具材に絡んだ甘酢あんの照りととろみ、そして甘酸っぱい香りが食欲をそそる。具材はいつもほとんど同じで、甘酢あんは市販のパック入りのものなので、味に変化はないけど店の料理みたいに常に変わらないおいしさ。おばあはこの味が好きだから、変えるつもりはないのだ

一緒に出てくる料理はバラエティに富んでいる。前日の煮物の残りや巻きずしなど一見、相性なんて考えているとは思えないようなものが隣に並ぶ。だけど食べてみると意外によく合っている。おばあの頭の中には中華や和食といった料理のジャンル分けはないらしい。味が合うか合わないか。それだけで判断しているようだ。

今日の副菜はシュウマイ。市販の冷蔵のものを電子レンジであたためたやつだ。酢鶏の味付けもシュウマイも中華料理だから相性は抜群なはず。料理のジャンルという先入観なく、過去に食べた味の記憶だけでこの組み合わせにたどり着いたのか……。だとしたら、おばあの味に対する感覚は、僕が思っている以上にすごいのかもしれない。

「いい献立やなあ」
僕はおばあを讃えたくなって思わず口にした。するとテーブルの向かいのおばあは眉間にしわを寄せ、
「何をいうてんねん! 今日はこんなんしかないんや!」
入れ歯を飛ばす勢いで激昂した。シュウマイのかけらが飛んできたので僕は咄嗟に自分の料理を手で覆った。

頑固だけど単純なおばあは、褒められるとすぐに機嫌が良くなる。照れているのを隠すため、怒っているふりをしたとしても笑顔になるのをこらえられない。僕が珍しく褒めたのに、本気で怒っているのはなぜだろう。意味もわからず怒鳴られて何だか損した気分だ。

おばあは今日のメニューを「こんなんしか」といっていた。目の前に並んでいるのは市販の甘酢あんと鶏の唐揚げで“時短”した酢鶏と、冷蔵品をあたためたシュウマイ。品数もいつもより少ない。毎日料理に手間暇をかけるおばあは、今日の料理に手を抜いているという意識があるのだ。その料理を僕が褒めたことで、嫌味をいわれたと感じている。たぶんそういうことだ。

僕はそんなふうには思わない。簡単にできておいしければそれでいい。それを言葉で伝えようにも、おばあは顔をゆがめたまま僕に目を向けようともせず、黙って酢鶏をほおばっている。今のおばあに何をいっても無駄どころか、逆効果だろう。おばあの頑なな様子に、だんだん腹が立ってきた。

僕も黙って食べはじめた。酢鶏はいつもの味。そしてやっぱりシュウマイが合う。上に乗ったぷりぷりの海老の身の食感もいい。

すべて平らげると、僕は酢鶏が入っていた皿を持ち台所に行った。思った通りフライパンにはまだ残っている。おばあが明日の昼にでも食べようと、ひとり分を残している。僕は自分の皿にそれを残らずよそって席に戻る。

さっきまでそっぽを向いていたおばあの視線が、僕と酢鶏の皿に注がれる。僕は具材をひとつずつ口に運ぶ。今日の料理はうまかった。皿いっぱいのシュウマイも残さず食べた。だけどまだ食べたいくらいうまかった。おばあの明日の昼ごはんがどうなろうと知ったことか。大体、理由もいわずに怒るなんてムカつく。そういう思いをひとつひとつに込めて、酢鶏の具材を噛みしめる。おばあは何もいわない。ただ表情は、いつもより穏やかになっていた。