「おばあ、夏バテで食欲ないんとちゃうんか!?」謎のカツと牛丼の目玉焼きのせ

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スーパーの謎のカツや、牛の炊いたん、目玉焼きなど、おばあがつくった夕飯のメニュー

メニュー
・謎のカツ(スーパーの総菜)
・牛肉ともやしとこんにゃくの炊いたん
・目玉焼き(半熟)
・ポテトサラダ
じゃがいも、にんじん、きゅうり
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

ぱっと見は、トンカツ。だけど、豚肉にしては、あまりにきれいに整いすぎた楕円形。食感も味も豚肉に似てはいるけど、何かがちがう。細切れの豚肉を、デンプンか何かでできた、つなぎと一緒に型に入れて押し固め、衣をつけて揚げている。そんな見た目と味がする、詳細不明の謎のカツ。

それをおばあは、スーパーでたまに買ってくる。

野菜も肉も輸入品には決して手を出さず、おかずはだいたい5品以上。健康を考えてサラダは欠かさない。食べるものには並々ならぬ信念を持っているおばあがなぜ、材料もわからない謎のカツを買ってくるのか。その理由はわかっている。おばあは一度も、このカツを口にしたことがないからだ。

謎のカツは本物の豚肉じゃないので、おそらく安い。形はデコボコがなく整っている。衣の厚さは均一で、揚げ色はムラのないきつね色。見た目も悪くない。スーパーの総菜コーナーに並んでいる姿は、〝安くておいしそうなトンカツ”に見えるだろう。

それを僕のためだけに買ってくる日、おばあは決まって食欲がない様子。今日もテーブルを挟んだおばあの席のおかずは、僕よりも2皿すくない。僕のところにだけ謎のカツと、目玉焼きがある。

謎のカツは材料が気になるし、味は本物のトンカツには劣るけど、まずいわけじゃない。それに、僕に一品でも多く食べさせてくれようとする気持ちはありがたい。だから不満を口にすることなく、僕は謎のカツを黙って食べる。そしてまた、おばあは謎のカツを買ってくるというわけだ。

牛肉ともやし、こんにゃくを、しょうゆと砂糖で甘辛く炒めたものもある。それをおばあはごはんにのせている。やはり食欲があまりないようで、量はすくなめだ。最高気温35度をこえる猛暑日がつづき、おばあは夏バテ気味なのかもしれない。肉を食べる元気があるだけマシだ、と思うことにする。

おばあがつくった「牛の炊いたん」をご飯に乗せた「牛丼」

僕も〝牛肉の炊いたん”をごはんにのせる。負けず嫌いのおばあの競争心をかきたてようと、山盛りにする。おばあもこれくらい平らげて、体力をつけて長生きしてほしい。

味も見た目も、牛丼みたいだ。汁けがすくないぶん、味付けが濃いめなので、ごはんと一緒に食べるとちょうどいい。こんにゃくやもやしも、肉とごはんの食感にアクセントを加えていて飽きさせない。

おばあがつくった「牛の炊いたん」をご飯に乗せた「牛丼」。そこに目玉焼きをトッピング
さらに目玉焼きをトッピングしてみた。黄身に箸を入れると、半熟の中身がとろりと流れ出る。それが牛肉と絡み、濃厚なおいしさを醸し出す。牛肉とたまごはタンパク質がたっぷりだし、味はこってり。いかにも体力がつきそうだ。おばあも目玉焼きをのせて食べたらいいのに。

食べる量がすくなかったおばあはさっさと食事を終え、台所に空の食器を下げに行った。そして戻ってきたおばあは、両手にひとつずつ皿を持っている。そこに乗っているのは、真っ赤に熟した甘そうなスイカだ。

一切れのスイカを持つおばあ

おばあは席に着くなり、スイカにかぶりついた。

僕のスイカの向こうでおばあがスイカを食べる

「お前も、あとで食べや」
といって、僕にもスイカをひと切れくれる。目玉焼きをのせた味の濃い牛丼のあとの、口直しのデザートにぴったりだ。

おばあはスイカもすぐに食べ終え、台所に空の食器を下げに行った。そして戻ってきたおばあはまた、何やら大事そうに胸のあたりに持っている。

スイカを食べた直後に、ハーゲンダッツのバニラアイスを食べるおばあ

おばあが手にしているのは、カップ入りのアイスクリームだ。しかもよく見ると「ハーゲンダッツ」のバニラじゃないか! 僕が普段買う「スーパーカップ」の3倍以上の値段の高級品だ。おばあは固く凍ったハーゲンダッツを、スプーンですこしずつこそげ取り、一口ずつなめとるように口の中に入れていく。冷たさをこらえるように目を閉じ、また開いたときに見せる明るい表情は幸せそのものだ。

「それは、くれへんのか?」
僕は聞いてみる。するとおばあは、口の中のものを飲み込み、
「お前はもう、食べすぎや!」
と声を荒げた。たしかに僕は、牛肉を何度もごはんに盛り、フライパンの中身を食べつくそうとしていた。ハーゲンダッツが食べられないのは残念だけど、おばあにはスイカやアイスクリームを食べる食欲も、僕を怒鳴る元気もある。そう思うとうれしくなった。