祖母は孫の誕生日にサプライズをするのか!? 知らん魚(ニギス)の焼いたん


祖母は孫の誕生日にサプライズをするのか!? 知らん魚(ニギス)の焼いたん

去年のメニューは、ノドグロの塩焼きだった。それまで食べたどんな魚よりも甘く、純白の身はやわらかく、染み出した脂で皮がほどよく揚がるほど脂がのっていた。味も値段も最高級のノドグロをこの日、おばあが買ってきてくれたのは、僕の誕生日を祝ってくれたからだった。

おばあは「近ごろ忘れっぽくなってあかん」とよく嘆いていて、ふと見た日めくりカレンダーの日付が一日前だったりすることもある。だけど僕の誕生日は、まだ一度も忘れられたことはない。10年ほど前に死んだおじいの誕生日と同じ日ということもあり、日常の予定や人の名前よりも強く記憶に刻み込まれているのかもしれない。

今年はどんなノドグロを食べさせてくれるのだろうか。刺身にすれば、白身の歯ごたえと、たっぷりのった甘い脂がどれほど素晴らしい味わいを生み出すのか。想像することもできない。煮付けにしても、驚くほどのおいしさを体験させてくれるのに違いない。いや、去年とは別の調理法もいいけど、あの塩焼きも捨てがたい。

おばあもはじめて口にしたノドグロを、うまいうまいといいながら、手づかみでかぶりついていた。この一年間、ノドグロが食卓に上ることもなかった。おいしいものを食べることを生きがいにしているおばあなら、今日くらい奮発してくれるはずだ。

いつもの10分前に自宅を出た僕は、おばあの家に急いだ。玄関の戸を開けると、焼き魚の香ばしい匂い。今日はやっぱり、ノドグロの塩焼きだ!

居間に駆け込むと、テーブルの上には料理がならんでいた。
「なんや、早いな!」
と台所からおばあの声がする。メインディッシュはまだ台所で調理中らしい。台所まで焼きたてのノドグロを迎えに行きたいけど、ここはおとなしく席に着いて待っていよう。今日の僕は、誕生日のごちそうを振舞われるゲストなのだ。

すべておばあに任せて、期待を膨らませながらじっと待っているのも悪くない。だけど10分早く家を出た上に急いで来たので、おばあはまだしばらく台所から出てきそうもない。何せ1年ぶりのノドグロだ。もっともおいしい瞬間を逃がさないためにも、いつもの時間きっかりに焼きあがるよう調理しているのに違いない。

もう待ちきれない! 席を立とうと思っていたときに、おばあが台所から現れた。左右の手に皿を持ち、腰を落としたすり足でやってくる。皿に乗っているのは、目が大きく皮の赤い、真鯛をスマートにしたような流線形のノドグロ……ではない!

ニギスらしき焼魚や煮物など、祖母(おばあ)が孫の誕生日につくったメニュー

メニュー
・知らん魚の焼いたん(ニギス?)
・きんぴら
鶏肉、レンコン、にんじん、ごぼう
・煮物
ワカメ、たけのこ、手綱こんにゃく
・酢の物
ワカメ、タコ
・みそ汁
ワカメ、豆腐、ネギ
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

おばあが僕の目の前に置いた皿には、めざしの皮をむいたような、白っぽくて細長い、見たこともない魚が3尾。とても高級魚には見えない。

おばあが席に着き、僕はようやく
「これは……何なのや?」
と絞り出すように聞いた。
「知らん! 知らん魚を焼いたんや!」
おばあは声を荒げた。

おばあは僕の(そしておじいの)誕生日を忘れてしまったのか。いや、そうとも限らない。この「知らん魚」が、実はとんでもなく珍しいやつで、その細長い身にノドグロに匹敵するおいしさを秘めているのかもしれない。おばあがひいきにしている商店街の魚屋は、上質なノドグロやマグロのトロも仕入れる目利きだ。「孫の誕生日のお祝いに、びっくりするようなうまい魚が欲しいんや」とおばあがいえば、とっておきの隠し玉を出してくれることだってありえる。

だけど見た目は、そんなふうには見えない……。

祖母(おばあ)が孫の誕生日に作った、ニギスらしき魚を焼いたもの

とにかくひと口、かじってみる。軽く干したような締まりのある歯ごたえ。噛むとエキスが染み出してきた。うま味が凝縮された干物の味だ。骨はやわらかく、クセがなくて食べやすい。なかなかおいしいけど、ノドグロの味わいを期待すると断然、物足りない。

祖母(おばあ)が孫の誕生日に作ったきんぴら

ほかのおかずは、具だくさんのきんぴらや、

祖母(おばあ)が孫の誕生日に作った、わかめとタケノコとこんにゃくの煮物

ワカメが山盛りの煮物、

祖母(おばあ)が孫の誕生日に作ったタコとワカメの酢の物

ワカメとタコの酢の物、

祖母(おばあ)が孫の誕生日に作った、わかめたっぷりの味噌汁

そしてワカメで全体が黒く見えるみそ汁といったワカメ押し。いつものおかずにワカメがプラスされていてちょっと特別感はあるけど、
「近所の人から、海で採ってきたのをもらったから、今日はワカメばっかりやで!」
とおばあはいった。僕の誕生日とは何も関係がなかったのだった。

30歳を過ぎると、誕生日だからといってめでたい感じはしなくなる。ノドグロがないのは残念だけど、ないとわかれば、文句をいっても仕方がない。それよりも、おばあがこれまで一度も忘れたことがない僕の誕生日を覚えていないなら、脳の病気を心配したほうがいいかもしれない。本当に忘れているのか、おばあに聞いてみようか。いや、待てよ。人を驚かせるのが好きなおばあはこれまで、ことあるごとにサプライズを用意して僕を喜ばせてくれた。

そういえば去年は、ケーキがあった。今日もおばあはきっと、食後に誕生日ケーキを用意しているはず。

料理を平らげた僕は、テーブルの向かい側のおばあにも聞こえる声で、
「甘いもんが食べたいな」
と大きな独りごとをいった。するとおばあは、
「甘いもん? そんなら、焼きいたイモがあるで!」
とストーブの上を指さした。

祖母(おばあ)が孫の誕生日にストーブで焼いていたサツマイモ

灯油ストーブの上には、アルミホイルに包まれた焼きいもがのっていた。おばあは本気でいっているのか? いや、おばあは僕を驚かせるためには、それくらいの嘘はつく。

僕は空になった食器を台所のシンクに運んだついでに、冷蔵庫を開けてみた。ケーキ屋の白い箱がここにあるはずだ。ところが、どこにも見当たらない。おばあが朝に食べるチーズやアロエヨーグルト、キムチのパック、調味料などがあるくらいで、いつも通り中身は少なかった。

まさか、本当に忘れてしまったのか? 僕はおばあに聞いてみようと決心して、冷蔵庫の扉を閉めた。

居間に向かうとテーブルの、僕とおばあの席に新たな皿が置かれていた。

祖母(おばあ)が孫の誕生日に買ってきたフルーツロールケーキ

イチゴがのったロールケーキだ! 表面をカスタードクリームとクラッシュアーモンドでデコレーションし、中央には滑らかそうなホイップクリームにフルーツが埋まっている。こんなおいしそうなロールケーキ、おばあは一体、どこに隠していたんだ!

孫の誕生日に買ってきたケーキのイチゴを食べる祖母(おばあ)

僕が尋ねる間もなくおばあは、スプーンでイチゴをすくい取り、

孫の誕生日に買ってきたフルーツロールケーキを食べる祖母(おばあ)

ためらうことなくスポンジを手づかみし、

孫の誕生日に買ってきたケーキを手づかみする祖母(おばあ)

引きちぎっては口に放り込んでいく。

「ケーキはどこにあったんや!?」
と聞くと、おばあは口にケーキを入れたまま、
「おじいの仏壇や!」
と勢いよく答えた。おばあの口からクリームが目の前のケーキに飛び散った気がしたけど、見なかったことにして、僕はイチゴをつまんで口に入れた。

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