見た目と味に孫も驚く、87歳のおばあの新作、出し巻きたまごとシュウマイの煮物!?

7月に入ったとたん、エアコンの除湿モードが止められない。晩ごはんの時間になり、歩いて5分ほどのおばあの家に向かおうと外に出ると、朝からの小雨が降り続いている。傘をさすほどでもないし、お腹は減っているし、そのまま早足でおばあの家にたどり着くと、小雨と汗で全身が粘りつくように湿っていた。

こんな日は、今年初のそうめんとか、冷たい蕎麦とかうどんとか、蒸し暑くてもつるっといける冷たい麺が食べたい! 季節と気候の変化に人一倍敏感なおばあなら、僕の希望をかなえる料理を用意しているはず。

おばあはたしか、6月1日の誕生日に『揖保乃糸』を知り合いからもらっていた。あの高級なそうめんの封印を解くのはいつかと、ひと月のあいだ楽しみにしていたけど、今日がそのとき……であってくれ!

期待を込めて居間の戸を開けると――テーブルには、涼しげな陶器の皿に糸のような白いそうめん……なんて影も形もなく、中央に陣取っているのは、大きな鍋!?

ガラスのフタの内側には水滴がつき、中身は熱々に違いない。この光景、思い出すのは、春先に汗だくで食べた、水炊き! あの時期はまだ肌寒い日もあったから、ぎりぎり鍋でも理解できるけど、まさか7月にもなって……そんなはずは!?

僕が驚いていると、
「さっさと座って食べや!」
おばあの大声が飛んできた。それほど急かせて、この蒸し暑さのなか、ただでさえ体が温まる水炊きを熱々のうちに食べさせたいのは、なぜなんだ!? 

僕が席に着くと――
食卓に置いた鍋のフタを片手で掴む祖母(おばあ)
おばあは手を伸ばし、鍋のフタを持ち上げる。すると――
食卓に置いた鍋のフタを開ける祖母(おばあ)
ふわっと湯気が立ち上り、現れた中身は―
鍋の中に入っている卵焼きや焼売を具材にした新しい煮物
黄色いたまご焼きに、大量の丸っこいシュウマイ!? 白菜もなければ鶏肉もない、なんて新しい水炊き……じゃない!? これは一体……何なんや、おばあ!

タケノコや練り物も入っているところをみると、どうやら煮物の一種らしい。水炊きじゃなくてほっとしたけど、どうして煮物にたまご焼きとシュウマイが?

思わずおばあにたずねると
「ええから食べてみい!」
とまた、大声で指令が飛んできた。

言われた通り、皿に取り分け――
出し巻き玉子や焼売を具にした煮物
食べてみると、たまご焼きはうま味たっぷりの出し巻きだ! おばあのレパートリーに出し巻きはないし、まったく焦げがない均一な見た目は、行きつけの総菜屋で買ってきたものに違いない。

とはいえ、うま味が効いた出し巻きに、いつもの甘めの煮物の味が加わって……一口めからもう、ごはんをかき込まずにはいられない。もともと完成された味わいの出し巻きを、おばあの得意の煮物の具材にすることで、さらにごはんに合う絶品のおかずに仕上がっている!

シュウマイはワンタンのようにふやけた皮に、これまた煮物の味が染み込んで、中身のしっかりとした肉の味とのコントラストがクセになる。続けてパクパクと口に放り込み、即座にごはんで追いかける。

この『和と中』が一体化した新作の煮物……めっちゃおいしいやんか、おばあ!

食卓にはほかにも、近ごろ定番になった――
トマトやほうれん草などのサラダの上に焼いた鯛の切り身を乗せたワンプレート
『野菜と焼き魚のワンプレート』も並んでいる。しかも今日の魚は、赤い皮が鮮やかに輝いている、鯛!

メニュー
・たまご焼きとシュウマイの煮物
・野菜と鯛のワンプレート
〈野菜〉生:トマト、キャベツ、ピーマン、ブロッコリー 茹で:ほうれん草
・ごはん

新作の煮物に高級な鯛とは……。おばあはこの前、コロナウィルスのワクチンの2回目を打ってひと安心感したからか、何だか覇気が出てきたけど、今晩のメニューはさすがにやる気出しすぎで……最高やで、おばあ!

僕が来たときからずっと、おばあの眉間に『戦闘モード』のようなしわが刻まれているのは、やる気が満ちているからかもしれない。

それが料理の感想を告げると、ふっと眉間が緩み――
マスクをして食卓に着いている祖母(おばあ)
穏やかな表情が戻ってきた。

僕も何だかほっとして、料理を食べすすめる。そして一気に平らげたところで、
「まだあるで。冷蔵庫、見てみい」
とおばあが驚くことを言う。

これだけ豪勢な料理のほかに、まだ何か用意しているのか!?

テーブルを片付け言われた通りにすると、冷蔵庫に入っていたのは――
手作りの黒糖蒸しパン
皿に乗った黒糖蒸しパン! おばあの『女子会仲間』が得意な、手作りのおやつだ。

さすがにもう食べられへんで、おばあ……と思ったけど、ひと口だけとつまんでみたところ、見た目より甘さは控えめで、もう一口食べたくなり……二口食べると止まらなくなり、結局全部食べてしまった。

心もお腹も大満足で、冷房はつけているけど背中に汗をかき、体の中から熱い力がみなぎってくるみたいだ。

蒸し暑くて体調を崩しやすい今だからこそ、さっぱりとしたそうめんをつるっとすするより、チャレンジ精神とボリューム満点の、食べごたえのあるメニューのほうが断然いい。そう思って、今日の晩ごはん作ったんやろ、おばあ!

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