孫の言葉に反発しても、健康メニューで本音が見える! サバ缶と白菜の煮たん

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サバ缶と白菜の煮物や、鶏肉とチーズのフライなど、おばあが用意した晩ごはんのメニュー

メニュー
・サバ缶と白菜の煮たん
・鶏肉とチーズのフライ(惣菜)
・煮物
里芋、手綱こんにゃく、たけのこ
・味噌汁
白菜、豆腐、わかめ、たまご
・白菜キムチ
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

祖母(おばあ)が作ったサバ缶と白菜の煮物

サバ缶だ! 白菜と一緒に調理して皿に盛られていても一目でわかった。小ぶりなサイズをぶつ切りにした形、しっかりと芯まで火の通った身、煮汁の色がついた柔らかそうな背骨、どれも幾度となく缶を開けるたびに目にして、味わってきた。サバ缶は独り暮らしをしていたころ週に3缶は開けていたし、今でもときどき昼におにぎりと一緒に食べている。白菜に染みた煮汁の色からすると、味噌味ではなく醤油味だ。

おばあの家で缶詰めといえば、牛肉の大和煮くらいしか食卓に並んだことはない。おばあはサバの切り身を煮付けにすることくらい難なくできるので、缶詰を使う必要がないからだ。

それでもなぜ、サバ缶を買ってきたのか。缶詰は開ければそのまま食べられるけど、わざわざ白菜を加えて調理している。たぶん、おばあが平日の午後から何時間も見ているテレビの情報番組で、「サバ缶でお手軽健康料理」とか何とかいって料理を紹介していたのだろう。缶詰なら調理済みなので、工夫次第で簡単に一品できあがる。

僕がいくら健康についてアドバイスをしても、おばあは素直に受け入れるどころか、反発して声を荒げる。だけどテレビ番組で取り上げたことなら、よろこんで実践する。そういえば数日前に近所のダイエーに行ったとき、サバ缶の棚が珍しく空っぽに近かった。あれはおばあと同じ番組を見た人たちの仕業に違いない。

僕のいうことは聞かなくても、おばあが健康に気を付けてくれるならそれでいい。青魚には高血圧を改善する働きがあるという。僕もおばあに付き合って、夕飯どきにやっている健康についての番組をよく見ているので、それくらいは知っている。

おばあは毎食後に降圧剤が欠かせないほど血圧が高い。青魚は毎日でも食べてほしいので、切り身よりも缶詰のほうが調理しやすいなら、これからサバは缶詰ばかりでも構わない。たまには煮付けをつくってほしいけど……。

サバの他にも今日のメニューは品数が多くて健康的な感じがする。

祖母(おばあ)が買ってきた鶏肉とチーズのフライ

きれいな小判型をしたきつね色の揚げ物は、たぶん商店街の総菜屋で買ってきたやつだ。

祖母(おばあ)が買ってきた鶏肉とチーズのフライの内側

半分に割ってみると、鶏肉と一緒にチーズが揚げてある。高齢者が不足しがちなタンパク質がたっぷりだ。

祖母(おばあ)が作ったたまご入りの味噌汁

タンパク質といえば、味噌汁にはかきたま汁のように、たまごがお椀全体に漂っている。

祖母(おばあ)が作った春キャベツとミニトマトのサラダ

サラダに入っているキャベツは、緑が鮮やかでやわらかい春キャベツ。普通のものより値段が少し高いけど、ビタミンなどの栄養価も高いという。

手綱こんにゃく、里芋、タケノコの煮物

煮物のこんにゃくやたけのこは、食物繊維が豊富でお通じを促して腸の環境を整えてくれる。

おばあと一緒に見てきた、健康情報番組の知識に照らし合わせると、今日の料理の栄養バランスは完璧だ。こういうメニューを食べ続ければ、おばあの血圧も下がるはず。

テーブルの料理を一通り眺めた僕は穏やかな気持ちで箸を手に取った。まずはサバ缶の煮物に箸をつける。缶の中で圧力をかけて調理したサバの身は、ぎゅっと締まっていて、適度な手ごたえの後にほろりと崩れた。そのひとかけらを白菜と一緒に口に運ぶ。

柔らかな白菜と、弾力のあるサバの歯ごたえが同時に感じられて心地いい。白菜とサバにしみ込んでいた煮汁がじわっと染み出す。それはお馴染みの、あの甘辛い味付け……ではなく、明らかに塩辛い。醤油が濃すぎるのだ。

サバ缶の味付けはもともと濃いめなので、いくらか白菜を足してもじゅうぶん味が付く。テレビ番組でも、そういうつくり方を紹介していたと思う。大雑把なおばあはいつも、何を見聞きしても細かいところまで覚えていない。年を取るたびにその傾向が強くなっている。そのうえはじめて手にしたサバ缶を、味見もせずに使ったのだ。

塩分は高血圧の大敵だということを、おばあはちゃんと覚えているだろうか。僕が説明したところで聞き入れてはもらえないだろう。テレビ番組で減塩について取り上げてくれたらいいけど、基本的なことすぎてあまり期待はできない。だったら僕が根気強く伝えるしかない。

「サバ缶煮たやつおいしいけど、ちょっと辛いな。味はうす目の方が――」
「うるさいわ! この歳になったらな、好きなもん食って死んだほうがええ!」
案の定、僕の話をさえぎっておばあは声を張り上げた。

だけど今日の健康的なメニューからすると、おばあの言葉は本心じゃない。
「お前のいうことなんか聞かん!」
と続けてまた怒鳴った。これもたぶん僕の言葉に反発しただけで本音は逆だろう。

威勢のいいおばあの声を聞いて、僕は穏やかな気持ちになった。再びちょっと塩辛いサバに箸をつける。するとおばあも向かいの席で、何ごともなかったかのように食事を再開した。