孫の軟弱な内臓を、おばあが鍛えてくれていた!? 異臭がするのはどの料理?

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焼いた赤魚やタケノコの煮物など、祖母(おばあ)が作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・赤魚の焼いたん
・たけのこと里芋の炊いたん
・えんどう豆のたまごとじ
・きんぴら
ごぼう、にんじん、れんこん
・みそ汁
豆腐、白菜、里芋
・サラダ
生:トマト、春キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

焼いたんに炊いたんに、みそ汁、サラダ。おばあがつくる夕飯はいつも品数が多くて、色合いも調理方法も多彩だ。今晩は特に野菜が多く、メインは魚で、見るからに健康的な感じがする。おばあがつくり慣れたシンプルな料理ばかりで、目新しさはないけど、おいしいのは間違いない! ただ、さっきからうっすらと漂ってくる妙な臭いは何だろう。

赤魚の塩焼き

焼き目のついた赤魚の皮から立ち上る香ばしい香りや、醤油と砂糖で炒めたきんぴらの香りなどにまじって、不快な臭いがときおりふっと鼻を突く。排水口から下水の空気が逆流してきているみたいだ。台所の排水口はおばあが毎日、掃除しているはずだし、洗面所の排水口は最近、水があふれてきたので僕が掃除したばかりだ。残るはトイレか。でもトイレにしては臭いはそれほど強くない。まさか、料理が腐っているなんてことがあるだろうか。おばあなら……あり得る。

おばあは以前、知り合いから、常温で増えるカスピ海ヨーグルトをもらってきたことがある。それを少し牛乳に入れて一晩置くと、牛乳がヨーグルトに変わるのだった。はじめは500mlの牛乳にヨーグルトを入れて増やしていたけど、おばあはいつからか、ヨーグルトの容器に牛乳を継ぎ足すようになっていた。容器はずっと同じものを使っていて、洗わなかったらしい。するとある日、僕がヨーグルトを食べようと容器を開けると、フタの裏には青々とした初夏の芝生みたいなカビがびっしりと生えていたのだった。

おばあは賞味期限はまったくといっていいほど気にしないし、カレーや煮物は3日目くらいなら当然出てくる。毎日火を通していれば、いつまでも食べられると思っている節がある。

それにおばあは実際に目で見たものしか信じられないらしく、地球が丸いということもわかっていない。ばい菌の存在も実感がわかないようで、ほとんど手を洗わないし、いくら注意しても咳やくしゃみの飛沫を部屋中にまき散らしている。おまけに包丁とまな板は、使った後でも洗っていないことがある。シンクの排水口は毎日掃除しているのに。何がきれいで汚いのか、おばあの衛生観念は、僕には理解できない。人一倍、お腹を壊しやすい僕は、口に入るものが清潔かどうか気になって仕方ない。

タケノコと里芋の煮物

たけのこと里芋の煮物からは変な臭いは感じられない。醤油よりもダシの効いた甘めの香りがして食欲をそそる。

そら豆の玉子とじ

えんどう豆のたまごとじやみそ汁も異常はない。どれも食べ慣れたおばあの味だ。臭いの原因は料理ではないのか。そう思いながら、いつも食卓に並んでいるサラダの深皿を手に取った。

痛んだサラダ

サラダを顔に近づけたとき、臭いの源がわかった。半分になったアスパラガスの断面が、半透明でヌルヌルしている。臭いはそこから湧き上がってくるのだった。そういえば、僕がいつか自宅の冷蔵庫で腐らせてしまったキャベツの臭いにそっくりだ。深皿の中で茹でたアスパラガスが腐敗しているのだ。生のキャベツとトマトは大丈夫そうだけど、茹でたほうれん草とブロッコリーも箸でつまむとズルズルとした感触がある。

おばあはサラダをつくるとき、あらかじめ切ったり茹でたりしておいた野菜を、皿に盛り付けて出す。その茹でた野菜が痛んでいる。
「野菜、悪くなってるで」
と僕がいうと、
「そんなら食うなや!」
とおばあは声を荒げた。

僕が料理のことを意見すると、プライドの高いおばあは怒るのだった。だけどこればかりはちゃんと伝えておかないとまずい。僕は子どものころからよくお腹を壊す。僕も食べる料理をつくっているおばあには、もっと衛生的に気を付けてもらいたい。小さなころから僕を見てきたおばあが、なんでそんなこともわからないんだ。
「そら、お腹壊すから食べへんよ!」
と僕は思わず強い口調でいい返した。まずい、さらに強く怒鳴られる、と身構えたけど、
「それくらい、お腹壊さんへん。もうだいぶん強うになってるわ」
とおばあは冷静な口調でいった。

どういうことだ。おばあと一緒のものを食べ続けていると、内臓が鍛えられてお腹を壊さなくなるというのか。つまりちょっと不衛生なところがあるのも、おばあは自覚しているのか。

たしかに僕はこれまで潔癖すぎたのかもしれない。よく手を洗うし、工場でつくったような大量生産の食べ物は、清潔な感じがするのでけっこう好きだ。僕はおばあの家で料理を食べ続けているお陰で、知らず知らずのうちにばい菌に強くなっていたのかもしれない。

そうだとしても、異臭を放つ野菜を口にするのは嫌だ。
「これ、お腹壊さへんのなら、先に食べてみてや」
僕はおばあに挑むようにいった。するとおばあは、
「悪うになっとるもんを、人に食わせようとすな!」
とついにキレて声を張り上げた。それはこっちのセリフだと思ったけど、僕は黙ったまま魚の身をほじくった。