おばあ、何やこの黒い塊! 焼きすぎやんけ! 和牛肉の焼いたん


おばあ、何やこの黒い塊! 焼きすぎやんけ! 和牛肉の焼いたん

戸を開けて息をした途端に、唾液が湧き出してきた。居間に充満しているのは、この前も夕飯に出てきた、焼いた和牛肉の香りだ。今晩はさらに香ばしさが強い。まさかおばあはちょっといい和牛の、うすい焼肉用ではなく、分厚いステーキ用の肉を焼いたのか! 厚みのある肉に火を通すため、先日よりも火力は強めで、表面に焼き色がついているのではないか。だから香りの中に香ばしさをはっきりと感じるのだろう。

おばあは先日食べた和牛の焼肉がよっぽどおいしかったのだ。柔らかな和牛肉なら、おばあの総入れ歯でも簡単に噛み切れる。数日前に焼肉を味わったあと、今度はステーキをほおばらずにはいられなかった。たぶんそういうことだ。

僕が席に着くと、台所からおばあが現れた。手に持つ皿からは、うっすらと煙が上がっている。おばあは無言でやってきて、僕の目の前に皿を置いた。そこに乗っているのは、肉汁が滴る極厚のステーキ……ではなかった。

黒く焦げた国産牛肉や煮物など、祖母(おばあ)が作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・国産牛肉の焼いたん?(黒焦げ)
・たけのこと里芋の煮物
・エンドウ豆のたまごとじ
・みそ汁
豆腐、里芋、玉ねぎ
・茹でもやし
・サラダ
生:トマト、春キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

黒焦げの国産牛肉

なんだこの物体は! 焼け焦げたような薄っぺらい塊が積み重なっている。たしかに香りは、この前の焼いた和牛肉みたいだけど、同じものとは到底思えない。ビーフジャーキーや鯨肉よりも赤黒く、焦げているにしては、香りはすこし香ばしいだけだ。

ひとつ箸でつまむと、鉱物のように硬かった。表面はテカテカとした脂で覆われ、黒曜石みたいな輝きを放つ。1年ほど前にも、おばあは黒く焦げた牛肉を食卓に並べた。あのときは、タレをつけて焼いた肉の表面は焦げていたものの、まだ肉の柔らかさは残っていた。

サシの入った和牛肉は、熱を加えるとすぐに脂が溶けだしてくる。そのまま放置しすぎると、自らの脂によって揚げられてしまう。おばあはこの牛肉をフライパンに乗せて火にかけ、しばらくのあいだ忘れてしまっていたのだろう。そのときの温度が焦げ臭くなるほど高くなく、炭になる前におばあが思い出したので、こんな状態で皿にのせられたのだ。

ところでなぜ、おばあはさっきから黙ったままなのだろうか。何食わぬ顔で食卓の向かい側の席に着き、煮物のたけのこを口に運んでいる。他のおかずはおいしそうにできているだけに、なぜこんな焼すぎた牛肉を出したのか気になる。

タケノコと里芋の煮物

たけのこと里芋の煮物や

エンドウ豆の卵とじ

今が旬のエンドウ豆のたまごとじもある。豆はおばあがひとつずつサヤから取り出したものだ。

茹でもやし

ガラスの皿にたっぷり盛られた茹でもやしや、

祖母(おばあ)が毎日作るサラダ

いつものサラダもあって、メニューには野菜が多くて健康的な感じがする。だけどこの牛肉は、見るからに体に悪そうだ。

僕はカリカリの牛肉をつまんだまま箸先を突き出した。
「この肉、食えるのか?」
「そら、食ってみたらわかるやろ!」
とおばあは怒ったような口調でいった。まずは自分で食ってみろ! といい返したかったけど、おばあの席には牛肉が乗った皿がないことに気がついた。おばあは自分の好物を我慢してまで、僕の分だけちょっと値の張る和牛の肉を買ってきてくれたのか。いや、それとも、焼きすぎてしまった高い牛肉を捨てるのがもったいなくて、僕におばあの分まで全部食べさせようとしているのか。

とにかく味見をしてみようと、僕は牛肉をかじった。乾いた音を立てて割れ、欠片が舌の上に乗ると、脂がにじんで和牛肉の甘みをうっすらと感じた。あの肉の味を求めて何度も奥歯で噛みしめる。せんべいを食べているような音がする。揚げものの衣みたいで味はあまりしない。でもわずかに和牛肉の風味が感じられて、ついつい箸が伸びてしまう。

牛肉をバリボリと噛み砕いていると、
「そら、肉の音ちゃうな!」
とおばあが叫んで笑い出した。食ってみろといったのはおばあやんけ! と思ったけど、僕も何だかおもしろくなってきた。なぜおばあは、ここまで焼きすぎた肉を食卓に並べたのか、そしてなぜ僕はそれを食べているのか。あらためて考えてみれば考えるほど、笑わずにはいられなかった。

黒焦げの国産牛肉の食べ残し

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