おばあの狙いか偶然か。酸味が溶け合う絶妙コンビ、酢鶏と巻きずし(2日めの恵方巻き)

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メニュー
・酢鶏
鶏肉、玉ねぎ、たけのこ、にんじん
・巻きずし(昨日の呼び名は恵方巻き)
たまご焼き、シイタケ、きゅうり、かんぴょう、かまぼこ
・野菜
(生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス)

玉ねぎやにんじんなどの野菜と、揚げた肉を甘酢あんにからめる中華料理、酢豚。その名の通り、豚肉がメインの料理だけど、おばあはスーパーで売っている鶏の唐揚げを使う。酢豚の豚肉のように一口大に切り、味も色も濃い甘酢あんがからめてあると、酢豚だと思って食べていたものの正体が、まさか“酢鶏”だったとは、最近まで気がつかなかった。

肉を揚げずに、食材を切って炒める。そこに市販の甘酢あんを加えるだけの手軽さと、その市販品の酸味が効いた味付けをおばあは気に入っているようで、しょっちゅう酢鶏が食卓にならぶ。とはいえ、おばあは同じメニューの組み合わせを嫌う。

おばあが山奥の農家で暮らしていた子どものころ、食べるものはその時期に畑で採れたものばかりだった。おかずがじゃがいもの煮付けのみ。そんなメニューが一週間以上つづくことも珍しくなかったという。作物の収穫時期をずらして栽培していたおかげで、戦時中もひもじい思いはしなかった。出てきたものを黙って腹に収め、無事に生き延びてきたおばあは、食べ物について好きだとか嫌いだとか滅多にいわない。

ただ今、思い返すと、同じおかずばかりを食べ続けることは、苦痛に感じられるのだろう。だからおばあは、メニューの新しい組み合わせを、試行錯誤し続けているのだと思う。

そして今日、酢鶏と一緒に出てきたものは、昨日おばあが8本もつくって食べきれなかった恵方巻きを切り分けたものだ。

「恵方巻きを食べやすく切ったんやな」
と酢鶏を食べながら僕はいった。
「巻きずしや!」
おばあは恵方巻きとはいわず、別の食べ物だと強調する。節分が過ぎ、包丁を入れると恵方巻きは巻きずしに変わるのだ。

気分だけでもと、別のものだと思いながら、ひと切れを口に運ぶ。サランラップでしっかりと巻いていたらしく、酢飯ぱさついていなくて、当たり前だけど味は昨日とまったく変わらない。

ただ、酸味の効いた酢鶏を口にしたあとだからか、ごはんのお酢の加減がマイルドに感じられる。お茶で味覚をリセットして、つづけて2切れ巻きずしを食べた。

やっぱり酸味が少ない。おばあがつくる恵方巻きや巻きずしはいつも、こんな味付けだっただろうか。

「巻きずしが酸っぱくないから“酢豚”と合うやろ」
僕の目の前で、巻きずしを頬張っていたおばあがいった。(おばあは酢鶏のことをあくまで酢豚と呼ぶ)

いわれてみれば、中華と和食だけど、味の組み合わせに違和感はない。僕はまた酢鶏を口にする。巻きずしのほんのりとした酸っぱさと、酢鶏の強めの酸味が衝突せずにゆるやかにつながって溶け合う感じ。

おばあは今日、酢鶏を出すことを想定して、昨日の恵方巻きの酢飯を味付けしたというのか。そこまで考え抜いていたなんて。

そういえば今日の酢鶏には、パプリカやピーマンが入っていない。ここにも何か意図があるのかと思って聞いてみたら
「忘れただけや!」
とのこと。

酢飯の味付けがマイルドになったのは、偶然だったのだろうか。それで酢鶏が合うとあとから思いつたとか。いや、酢鶏が合うというのも、食べてみてわかったことかもしれない。おばあにどう聞いても、確かな答えは得られそうにない。