おばあの味を求め、土鍋で作る炊き込みごはんは、石川県の無農薬米と瀬戸内海の新鮮な牡蠣で

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自炊をはじめてやっとわかった【ごはんも立派な一品】!

料理上手なおばあが特に得意だったのが、何かを煮炊きした料理“炊いたん”だ。

生まれ育った愛媛の山奥で、おばあは子どものころから家族のために、その日採れた食材を“炊いて”いた。22歳で結婚し大阪に移り住んでからも、家族に料理を作り続けてきた。

僕もおばあに10年間、料理を作ってもらった。もちろん焼いたり揚げたりした料理もあったけど、炊いたんは毎日のように食卓に並んだ。だからおばあは80年近く、ざっと計算して、炊いたんを2万回は作ってきたことになる。

とてつもない回数だ。最近料理を始めた僕が、おばあと同じ炊いたんの技を身につけるのに80年かかるとしたら、一生かかっても無理そう……。それでも、できる限りやってやる!

そう心に決めて、今回挑戦する炊いたんは――

玄米をステンレスのボウルに入れて水に浸している

ごはん! 

……って、炊いたんはおかずとちゃうんかい! そんな声が聞こえてきそう。

たしかに僕は、これまでにおばあが一番多く作った炊いたんは、“里芋の炊いたん”だと思っていた。

だからこそ、おばあのような“炊いたんマスター”になりたくて、

こんな⇧里芋の炊いたんを、何度も作った。

だけど考えてみれば、おばあは里芋より頻繁に、というより毎日欠かさず米を炊いていた。僕は一度に5合を炊いて、数日分を冷凍するけど、おばあは毎日、僕と2人分で2合を炊いてくれた。

ごはんは毎食出るのが当たり前だと思って意識していなかったけど、自炊するようになってわかった。米を計って洗って、炊く。そして炊飯器を分解して洗う、その手間暇は“当たり前”なんかじゃない。ごはんも立派な一品だ。

電気炊飯器よりおいしく炊くには?

おばあが炊いたごはんは艷やかでもちもちで、ひと粒ずつが立っていて格別だった。なぜなら、愛情がこもっているから……だけじゃない。農家から直接買った上質な米を、高火力のガス釜で炊いていたからだ。

ところが数年前、高齢のおばあでもスイッチひとつで手軽に使える電気炊飯器にかえた。それでもけっこうおいしく炊けるので、僕が料理をするようになってからも同じものを使っている。

とはいえ、やっぱり以前のごはんより微妙に味が落ちる気がする。またガス釜を使ってみようかと思ったけど、どこにしまったのか探しても見当たらない。

というわけで今回は、電気炊飯器よりおいしく炊けるという――

土鍋で玄米を炊くところ

土鍋を使うことに。それに土鍋はガスの火を使うから、ガス釜で炊くおいしさと変わらないはず。

使うのは石川県の無農薬米と瀬戸内海の牡蠣

ちなみに米は、石川県白山市の清水農園の無農薬米をウェブサイトで直接買っている。

味がいいのはもちろん、手間のかかる無農薬栽培とは思えないほど価格は手頃。それに農園は能登半島地震の被害はまぬがれたそうだけど、少しでも石川県の経済に貢献できたらうれしい。

色が茶色いのは、玄米に近い3分づきの米を注文しているから。無農薬なので、精米の度合いが少なくても安心して食べられる。

そして土鍋で炊くのは米だけじゃない。おばあの知り合いがなんと――

ボウルに入れた牡蠣のむき身

また瀬戸内海産の牡蠣のむき身を送ってくれた!! しかも牡蠣のシーズンの最後で、この前送ってくれたー―

⇧のものより大きく育っている。前回の牡蠣のお礼を伝えたとき、そんなに喜んでくれるならと、また送ってくれたのだった。本当にありがとうございます!

牡蠣はまず、

牡蠣のむき身に小麦粉をかけて洗うところ

小麦粉をまぶしてやさしく水で洗い、

皿に入った生牡蠣のむき身

汚れを落として下ごしらえ完了!

牡蠣入り炊き込みごはん調理開始!

この牡蠣と米で作るのは僕の大好物、炊き込みごはん。

ステンレスの雪平鍋に醤油やみりんなどの和食の調味料を入れている

味付けは、介護施設にいるおばあにも聞きに行ったけど、正確な分量は覚えていなかった。というより、おばあはいつも長年の勘で味付けしていたからレシピなんて存在しない。

そこでおばあが使っていた調味料を思い出し、分量はネットで調べて参考にした。

そして鍋に入れたのが、水650ml、みりん、しょうゆ、白だしを、だいたい大さじ2だ。
あとは味見をして、自分の感覚を信じて微調整した。

その鍋を火にかける。さらに具材の、

炊き込みごはんの具材として刻んだニンジンとシメジ

細かくしたニンジンとシメジ、そして牡蠣を、

ステンレスの片手鍋に炊き込みご飯の具材、ニンジンやシメジや牡蠣を入れて煮ている

鍋に入れて数分炊く。それを、

土鍋で炊く牡蠣の炊き込みごはん

米を入れた土鍋にそそぎ、牡蠣は均等に並べる。あとは、

フタをした土鍋

フタをして中火で15分から20分ほど炊き、火を止めて5分くらい蒸らす。

台所に充満する甘辛くて懐かしい香りがたまらない。ただ、自分で作ったのはこれがはじめてだ。フタを開けるまで、安心するのはまだ早い。

ついに完成! だけど不安も……

うまく炊けているか心配になりがら、恐る恐るフタを開けると、湯気とともに現れた鍋の中身は、

土鍋で作った炊き込みごはん

おいしそうに炊けている! しゃもじで底をすくうと、

土鍋で炊いた炊き込みごはんのおこげ

茶色い“お焦げ”もできている! おばあがガス釜で炊いていたときにも、こんなお焦げができることがあった。すると香ばしさが加わって、一段とおいしかった。

味見したい衝動をおさえながら、茶碗によそう。ここで味を知ってしまうと、一口目の感動が薄れてしまう気がする。

そしてもう一品、

ブロッコリーや葉物野菜のサラダ、ヨーグルトドレッシングをかけたもの

電子レンジでチンした温野菜サラダを皿に盛り付ける。そこにかけたのは、台所にあったもので作ったヨーグルトドレッシング。

作り方は無糖ヨーグルトにレモン塩、それにはちみつとブラックペッパーを少々混ぜただけ。酸味と甘味と塩味が合わさって、ヨーグルト好きならクセになる味だと思う。

というわけで今回のメニューは、

お盆に乗せた、器に盛り付けた牡蠣入り炊き込みごはんとサラダ

この二品。

メニュー
・牡蠣入り炊き込みごはん
・レンチンサラダ ヨーグルトドレッシング


いつもより品数は少ないけど、久々に食べる大好物がある。しかも牡蠣入り! まずは、

漆塗りの器に盛り付けた牡蠣入り炊き込みごはん

牡蠣からいただきます! 箸で持っただけでわかる、このプリップリ! 火を通すと豆粒ぐらいに縮んで固くなる牡蠣もあるのに、さすが瀬戸内海産のシーズン最後の大ぶりのやつ。土鍋でしっかり炊いてもこの食感……醤油の炊き込みの味と合わさって、たまらない。

大成功と思ったら、ごはんはまさかの……

続いてごはんを口にいれると、これまた絶品……って、あれ!? ひと粒ずつが立っているというより、固くて芯が残って……しまった! ほぼ玄米の三分づき米を使っているのに、白米を炊くときと同じ水の量で炊き込みごはんにしてしまった。三分づき米はいつも半日くらい水に浸して、少し多めに水を入れるのに、土鍋で炊くことに気を取られて忘れていた。

とはいえ、味付けはうまくいったし、ちょっと歯ごたえがあるだけだ。歯だけは丈夫な僕にとっては、何の問題もない! 

それも元をただせば、おばあのおかげ。僕は子どものころにおばあの入れ歯を見て怖くなってから、歯磨きとフロスを欠かさなくなり、30年は一本も虫歯になっていない。おばあ、反面教師になってくれてありがとう!

それに何より、この翌日にもおばあに会いに行き、写真を見せながら米の水加減を失敗したことを報告すると、久々に満面の笑みを見せてくれた。おばあも過去に同じ失敗をやらかしたことがあるみたいだった。

そして入れ歯の入っていない口でゆっくりと、
「そら……あかんなあ。次は、しっかりやりや」
と僕を励ましてくれた。

「そら、しっかりやるでえ」
と答え、おばあがまた僕の作った料理が食べられる日が来ることを願って、おばあの部屋をあとにした。