通夜でおばあがいない夜 鍋の残りに中華麺をぶち込む! 春菊入り鍋ラーメン

スポンサーリンク

おばあの家に夕飯を食べに行こうとジャンパーを羽織っていると、電話がかかってきた。おばあからの着信を示す画面をスライドする。スマホを耳に近づけるより早く、「お通夜に行ってくるからな!」と大声が聞こえてきた。

「誰が死んだんや? 晩ごはんはあるんか?」
と聞き返しても返事がない。おばあが電話をかけてくるときは、いつもこれだ。せっかちなおばあは自分の用件だけを伝えて、一方的に切ってしまう。こっちからかけるときも、いいたいことを手短に話さなければ「なんや、早よ、いえや」と急かされる。

振り込め詐欺の電話がかかってきたら、すぐに詐欺だと気づいて大声で怒鳴るか、犯人の要求通りの行動を素早く実行してしまうかのどちらかだと思う。

わざわざ電話をしてきたということは、晩ごはんは用意しているのだろう。なければ「自分の家ででつくって食べろ」くらいいうはずだ。。

おばあがいつも座っているイス

おばあが愛用する回転イスのクッションは、おばあの形にへこみ、テレビの方を向いている。出かける直前までテレビを見ていたらしい。おばあは今日、通夜があることを忘れていて、さっき急に思い出して電話をかけてきたのかもしれない。

テーブルには何も料理がのっていないので、台所に行ってみる。

台所の土鍋と中華麺

昨日も出てきた土鍋と、

おばあが用意した中華麺とラップのかかったおかず

中華麺、ざるに山盛りの春菊、そしてラップのかかったおかずが用意されている。

台所に用意されているラーメン用の丼ぶりとお茶碗

さらに大きめの丼ぶりも流し台にのっていた。鍋の残り、中華麺、丼ぶり。これを使って自分で晩ごはんをつくれということだろう。思いつくメニューはひとつしかない。

煮えたぎる二日目の鍋

まずは鍋を火にかけ、沸騰したところで、

二日目の鍋に中華麺を投入したところ

中華麺を投入!

二日目の鍋に中華麺と春菊を投入したところ

そして昨日も大量に食べた春菊を入れ、フタをして煮立たせれば

二日目の鍋に中華麺と春菊を入れて作った、鍋ラーメン

春菊鍋ラーメンが完成! したけど、あまり食欲をそそる見た目じゃない。とはいえ、カツオベースの和風だしの香りはいいし、豚肉やしめじ、新しく追加したフレッシュな春菊といった具材の相性もいいはず。

丸くて太い、ちゃんぽんのような麺をすする。20円引きのゆで麺は、あまりコシはないけど、つるっとした口当たりは悪くない。甘めの味付けのダシに、春菊のさわやかな香りと苦味がアクセントになっている。うどんともラーメンとも違う、独特の味が癖になる。

麺をつるつる食べ進む。ところが、なかなか減らない。食べても食べても丼ぶりの底から沸き出してくるみたいだ。そういえば、中華麺の袋には「二人前」と書かれていたような気もする。たとえそうでも構わない。用意してくれたものを食べきることが礼儀というものだ。

最近、太り気味の僕は、おばあからごはんのおかわりを禁止されている。おばあがいない今日くらい、炭水化物を好きなだけ食べてやる。

出かけたおばあが用意していた佃煮と黒豆煮

この、小さなエビや菜っ葉を刻んで炊いたようなおかずは何だろうか。ごはんにかけると、おいしそうだ。出されたものをおいしく食べないのはやはり、礼儀に反するだろう。たしか、台所に出ていた丼ぶりの隣に、ごはんの茶碗も用意されていた。

出かけたおばあが用意していた佃煮をごはんにのせたところ

さすがにラーメンを2人前食べていると、お腹も膨れてきたので、ごはんは少なめに盛る。そこにふりかけをまぶし、一気にかき込む。味付けは濃いめで甘辛く、エビや菜っ葉の食感がぱりぱり、サクサクと口の中でリズムを刻む。思った通り、ごはんにぴったりだ。

すべて平らげると、久しぶりに感じる満足感がやってきた。「おいしかった」と告げようと思っても、向かいの席におばあはいない。

ところでおばあは、晩ごはんを食べて出かけたのだろうか。急いでいたようだから、まだかもしれない。ということは、あの二人前の中華麺の半分は……。たとえそうだとしても、電話をかけてきたとき、一方的に切ってしまったおばあのせいだ。

そう思い込もうとすると、何だか炭水化物を食べすぎた腹が苦しくなってきた。通夜からなかなか帰ってこないけど、おばあは腹がへっているだろうか。僕は席を立ち、台所に向かった。冷蔵庫にはまだ。中華麺は残っているだろうか。

おばあがいつも座っているイスと灯油ストーブ