謙遜のひとことで、おばあと孫がWin-Win! うすい衣の豚肉のステーキ?

メニュー
・豚肉のステーキ?
・納豆

納豆、卵黄、青ネギ
・たけのこの炊いたん(3日め)
わらびがなくなり、たけのこのみ
・みそ汁(2日め)
豆腐、白菜、玉ねぎ、たまご、青ネギ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

僕が夕飯の席につくなり、
「今日は買いもん行ってへんし、こんなんしかないで!」
テーブルの向かい側からおばあがいった。

今晩は手の込んだ料理がないけどがっかりするな、とおばあはいいたいらしい。僕の目の前には5つのおかずとごはんが並んでいる。たしかに前日の残りものや納豆、豚肉を焼いただけのステーキなど、あまり手間をかけずに出せるものばかりだ。それでも品数は十分だし、おいしそうなものばかり。おばあの言葉を耳にしなければ、今晩の料理に注がれた労力なんて気にすることもなかった。

さっきから料理を見ていると、おかしなことに気がついた。料理は手抜きどころか、うれしいひと手間が加えられている。

納豆は発泡スチロールの容器から陶器の小皿に移し替えられ、卵黄や刻んだねぎまでのっている。昨日つくったみそ汁にはたまごが投入され、箸で割ると鍋を慎重にあたためていたことがわかる絶妙な半熟。そしてメインの豚肉は、そのまま焼いたのではなく、表面にうすい衣のようなものをまぶしてある。

豚肉をひと切れ口に運ぶと、うすい衣の効果がわかった。衣がサクッとした食感を生み、豚肉の弾力とのコントラストが心地いい。醤油で下味までつけられていて、上から何もかけなくてもあとを引く、ごはんがほしくなる味だ。

買い物に行っていなくても、おばあはありあわせの食材に工夫をほどこして、期待した以上の料理をつくりあげている。それをなぜ「こんなん」なんて、つまらないもののようにいったのだろうか。おばあなりの謙遜なのか。それとも、僕の期待のハードルを下げておくことが、料理をよりおいしく感じさせるための最後のひと工夫だったとか……。

だとしたら、おばあの思惑通り、この豚肉のステーキは食べはじめると箸が止まらなくなる。一気に3分の1ほど食べてしまった。顔をあげると、おばあと目が合った。目元と口元が緩んだおだやかな笑みを浮かべている。僕が豚肉のステーキを夢中で食べていたことうれしかったのだ。

「これ、うまかったで」
僕はさらにおばあに喜んでもらいたくて感想を伝えた。おばあは顔全体にシワが寄り満面の笑みになった。
「そうか、トンカツうまかったか! 粉がすこし足らへんと思ったけど、それならよかったわ!」

トンカツだって!? 豚肉はステーキではなくカツだったのか! そういえば衣には小さな丸いつぶつぶが混じっている。そして、醤油味ということは……そうか、衣は〈揚げずにからあげ〉だ。以前もおばあは、鶏肉にまぶしてフライパンで焼くだけで唐揚げがつくれるこの粉を使い、トンカツをつくったことがある。もう粉が残りすくなかったので、トンカツらしく仕上がらなかった。それをおばあは失敗だと思い、僕が口にする前にあらかじめ、さっきの言葉を伝えたのだろう。

だけど僕にとっては大成功の料理だ。そしておばあにとっても、料理を口にした僕から思いもよらない反応が返ってきた。僕に期待をするなといっておいて、結局、がっかりするどころかうれしくなったのは、おばあも同じだ。

豚肉に集中していて納豆に手をつけていなかったことに気がついた。小皿を手に取り混ぜ始める。納豆嫌いのおばあはいつものように顔をしかめることなく、おだやかな表情で僕の手元を見ていた。