台湾出張特別編!台北最大の士林夜市を堪能!?なぜかおばあを思い出す

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士林夜市の人並みの風景

台湾の都市では毎晩、深夜まで大勢の人で賑わうマーケット、夜市が開かれる。首都である台北市にはいくつもの夜市があり、中でも最大の規模をほこるのが士林夜市(シーリン・イエシー)だ。何本も交差する通りの店先や路上の屋台に煌々と明かりが灯り、地元民や観光客でごったがえしている。平日にたまたま訪れただけなのに、年の変わり目のお祭りでもやっているのかと思うほど賑わっている。

急に台湾での仕事が入り、僕は日本を離れていた。予定の合間を縫って自由に活動できるのは夜間のみ。となれば夜市に行かない手はない。そこで店の数も範囲も訪れる人も台湾で最大だという、士林夜市にやってきたのだった。

士林夜市のおかず売り

軒を連ねる店先や屋台では見たこともない食べものが売られている。揚げ物や香草、スパイス、醤油に似た香りが漂ってきて、通りを歩いているだけでお腹が減ってくる。

せっかく台湾に来たのだから、地元の料理の味を堪能したい。見るからに台湾風の汁なしの麺類や臭豆腐を出している店もあるけど、客は店内で椅子に座ってがっつり食べていた。ひとつの店舗で腹を満たしてしまうより少しずつ、いろんな種類の料理を食べ歩きたい。そう思いながら進んでいると、通りの端で行列ができている店を見つけた。

士林夜市の豪大大鶏排(巨大フライドチキン屋)の店先

『豪大大鶏排』と看板にある。売っているのは、店員の顔よりも巨大な揚げ物だ。列に並んでいる地元民らしい人に聞くと「フライドチキン」だという。そういえば、大阪に残してきたおばあも、鶏肉の唐揚げが好物だった。おばあへの土産話に、台湾で人気の鶏肉の唐揚げを食べてやろう。夜市の端のほうにあるのに長い行列ができていて、常連客らしい地元の人も並んでいるようだし、きっと味もいいのだろう。

鶏肉を揚げる係と、それを客に渡してお金を受け取る係が効率よく作業を分担して、てきぱきと客をさばいていく。15人ほどの行列の端にいても、5分足らずで順番がやってきた。購入の際は「辛い」か「辛くない」を、日本語でもいいので伝える。すると70元(250円ほど)で顔よりも大きなフライドチキンを手にすることができた。

士林夜市の豪大大鶏排(巨大フライドチキン)を食べる前に記念撮影

行列の先にいた観光客のように、僕も写真を撮ってからかぶりつく。衣はあまり厚くなく尖った部分が口の中に刺さりそうなほど固い。揚げたての油が染み出してきてやけどしそうだ。内側の鶏肉はしっとりとしていてほどよい弾力。味つけは醤油に似ていて日本人にも馴染みやすく、骨がなくて食べやすい。

「辛い」を選んだ僕のフライドチキンには、唐辛子の粉がまぶされている。あとを引く味わいで、歩きながら全部、いつの間にか平らげてしまった。

しまった! これだけでもう、お腹が膨れてしまった。少しずついろんな料理を食べ歩くはずだったのに。しかも、あの大きさと味は、ここにしかないものかもしれないけど、フライドチキンは台湾料理ではない……。ここで腹がいっぱいになったからといってホテルに引き返すと、もう台湾にいる間、この士林夜市に戻ってくる時間はとれそうにない。

士林夜市にある寺、士林慈誠宮の外観

再びお腹を空かせるため、夜市をまた歩いてみることにした。しばらくして、『士林慈誠宮』と屋根に掲げた寺院に行き当たった。

士林夜市の寺、士林慈誠宮の祭壇にお参りする観光客

中では西洋人のバックパッカーや、地元の人が祭壇に向かってお参りをしている。みんな線香らしき火の付いた細長い棒の束を手にしている。

士林夜市にある寺、士林慈誠宮の線香

入り口から人の流れに沿って進んでいくと、さっきの長い線香が大量に置かれていた。その脇にある台の小さな切れ込みに、前にいたおじさんがコインを投入して束をいくつか掴んだ。僕もそれにならう。適当な本数を取ると、先にいたおじさんが「10」と英語で僕に向かっていった。台湾の寺では線香を10本、手に取るのが作法なのだ。

士林夜市の寺、士林慈誠宮の線香にガスバーナーで火を点ける

士林夜市の寺、士林慈誠宮で線香を立てる

僕は10本の線香を持ち、おじさんのまねをして、備え付けのガスバーナのつまみをひねって火を点けた。炎を消すと煙が立ちのぼる。それを持ったまま祭壇に向かって祈り、外に出て、灰のたまった香炉に10本の線香を突き立てた。手を合わせて目をつぶると線香の香りがより強く感じられ、おばあがおじいの仏壇に向かい、線香に火つける後ろ姿が頭に浮かんできた。

士林夜市の海友十全排骨(薬膳排骨屋)の外観

また通りを歩いていると、左右からつぎつぎと漂ってくる料理の香りに食欲が刺激されてお腹が減ってきた。そこへ通りかかった店の奥から、客を呼び込んでいるらしいだみ声が聞こえてきた。

台湾(台北)の士林夜市の海友十全排骨で排骨を煮込んでいる店先

『海友十全排骨』と看板にあるその店は、入り口の大きな黒いツボで、黒い汁と具材を煮込んでいた。僕が日本人だとわかると、店のおばさんが手に持ったメニュー表を指差しながら片言の日本語で、『十全薬燉排骨』が人気だと教えてくれた。おいしいうえに体にもいいという。さっき揚げ物で腹を満たしてしまったせいで胸焼けを起こしているので、体にいいというのはうれしい。

士林夜市の十全薬燉排骨を食べる

『十全薬燉排骨』(90元)は豚肉のスペアリブを煮込んだスープだった。お腹が減ってきたとはいえ、フライドチキンをたらふく食べたばかりなので肉は正直、もういらない。それに脂身が多めのスペアリブのどこが体にいいというのか。スープは真っ黒で塩分も多そうだ。

レンゲでひと口すすると、意外と味は濃くなくあっさりとしている。ほんのりと漢方薬のような香りもする。そういえば料理名にも『薬』とあった。これはきっと薬膳料理のようなものなのだろう。スープに脂はあまり浮いておらず、肉も脂っこくない。おばあが牛すじを湯がいて下処理をするように、この店のスペアリブも余分な脂を丁寧に落としているのだろう。

向かいのテーブルのカップルが、キャベツを茹でたものを2人でつついていた。肉ばかりを食べている今の僕に足りないのは野菜だ。僕もキャベツが欲しいと店のおばさんに伝えるとすぐに運ばれてきた。

士林夜市の海友十全排骨の青菜(キャベツ)を茹でたもの

キャベツには醤油のような黒いタレがかかっている。口に入れるとにんにくの香りがする。濃厚な味わいのにんにく醤油で食べるキャベツは、薬膳スープで煮込んだ肉の味を引き立てる。肉を食べているのに、漢方とキャベツの効果だろうか、食べれば食べるほど胸焼けも解消されていく。このにんにく醤油は、おばあも家でつくることができるかもしれない。いつも食卓に並ぶサラダにかけると、野菜も肉も、さらに食がすすみそうだ。

さっき腹に収めた巨大なフライドチキンも早速、エネルギーに代わりはじめたようで、僕はじっとしていられなくなってきた。すべて食べ終えて店を出ると、夜市の通りをまた歩きはじめる。

士林夜市のバイク駐輪場になっている観音様の前

台湾の士林夜市でバイク駐輪場になっている観音様の前

蒸し暑い空気の中、観音菩薩が見守る原付バイクの駐車場や、

台湾(台北)の士林夜市の射的屋で制服姿の女子高生が拳銃を構える

女子高生が制服姿で拳銃を乱射する射的場を通り過ぎ、

台湾(台北)の士林夜市の青草茶屋の外観

『青草茶』と電光看板に掲げる店を見つけた。看板によるとどうやら創業から50年を越える老舗で、ここのお茶は「品質第一」かつ「健康」にもいいらしい。

台湾(台北)の士林夜市の青草茶

苦茶や紅茶など『茶』とつくメニューが揃っている。僕は看板メニューの『青草茶』(小:25元)を注文した。青汁みたいな苦味がありそうだと思いながらすするとかなり甘い。「健康」をうたっているけど、香りは薬っぽくなく、さわやかなミントが効いている。甘党のおばあも気に入りそうな味だ。甘いお茶を一気に飲み干すと、ますます喉が乾いてきた。

台湾(台北)の士林夜市にあるかき氷屋の外観

人通りが落ち着きはじめた夜市をまたさまよっていると、光り輝くかき氷が並ぶ看板が目についた。店名は『豪品味』というらしい。

台湾(台北)の士林夜市で食べたマンゴーかき氷

僕は引き寄せられるように店内に足を踏み入れ、カウンターでマンゴーかき氷(150元)を注文した。僕も、そしておばあもマンゴーが好きだ。運ばれてきたかき氷は大きな皿に盛られ、練乳とシロップ、マンゴーの果肉がたっぷりのっている。練乳のかかったキンキンに冷えたマンゴーが想像以上においしくて、ガツガツと食べ進む。飲み込んだマンゴーが胸のあたりにつかえ、冷たさで頭が痛くなる。

つかえがとれず、これまでかき氷の中を食べてきた中でも最高に頭が痛くなって、両手で頭を抱え込んでしまった。近くにいた店員が「大丈夫?」と英語で聞いてきた。僕は目を閉じたまま片手を上げて返事をするのが精一杯だった。

おばあも好きな味だろうけど、食べるときは気をつけないと、血管が収縮して持病の高血圧が悪化してしまいそうだ。そんな考えが、まぶたに力を入れたままの僕の頭にぼんやりと浮かんできた。そういえば僕は、台湾の夜市でおばあのことばかり考えている。おばあの好きなマンゴーのかき氷や、フライドチキンを食べて土産話にしようと思ったけど、本当はおばあにも食べさせたかったのだ。関西国際空港から飛行機で三時間足らずで来られるのだから、いつか連れてきてやろう。食べものはきっと気に入るはずだ。

「大丈夫? 大丈夫?」という店員の声がまた聞こえてきた。今度は目を開け「大丈夫。おいしかった」と答えた。