メニュー
・焼き鳥「とりかわ」(商店街の惣菜屋)
・子持ちししゃもの焼いたん
・納豆
・みやけ食品「えび茶わんむし」
・キムチ
・サラダ
生:ミニトマト、玉ねぎの醤油漬け、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
今晩もお腹を空かせておばあの家にやってくると、僕の席に並んでいたのは――
あめ色のタレが絡んだ焼き鳥が三本。そして――
僕の好きな子持ちシシャモ! って……ちょっと待てよ。焼き鳥は焼き鳥でもーー
「かわ」かよ! ねぎまでもつくねでも、ももでもなく、かわばかりを三本とは!? これまでもおばあが商店街の総菜屋で焼き鳥を買ってくることはあったけど、かわが食卓に並んだことは一度もなかった。
向かいのおばあの席に目をやると、すでに食器は空になり、「かわ」と書かれた竹串が三本残っているだけだった。おばあが鶏肉好きなのは知っていたけど、晩ごはんの時間に僕がやって来るのも待ち切れず、三串もきれいに平らげるほど鶏かわがお気に入りだったとは……。
僕も串を一本つまんで食べてみる。ぷりっとした歯ごたえの鶏かわは、軽い力で噛み切れる。たしかにこれなら、総入れ歯のおばあでも食べやすい。だけどたっぷりと脂を含んだこの鶏かわばかりを三本も食べるとなると、油ものが好きな僕でも胃もたれしそうだ。しかも味付けは塩ではなく、味の濃いタレが、縮れたかわのすき間にまでしっかりと入り込んでいる。かわを口に入れた後には、すかさずごはんを頬張らずにはいられない。
向かいの席ではおばあが、「そよ風」モードの扇風機の生ぬるい風にあたりながら、涼しげな顔をしてテレビを見ていた。
「なんで今日は、かわばっかりなんや?」
僕はたずねながら、かわの刺さった串を持ち上げた。するとおばあはゆっくり振り向き、シワに埋まった目を見開いて、
「へ? なにって、それ、焼き鳥やないか」
と当然のことのようにいった。
なんだって!? おばあにとって焼き鳥は、ねぎまもハツもレバーもつくねも、そしてかわも、部位の違いなんて関係なく、どれを食べても同じだとでもいうのか!? そんなん、ぜんぜん違うやろ!
いや……本当にどれも同じだと思っているのかもしれない。ラーメンだっておばあは、ミソやしょうゆ、とんこつの違いがわからず、「どれもおんなじラーメンやろ!」といっていたくらいだ。だけど本当に、焼き鳥はもも肉と鶏かわも同じものだと思っているのか? 見た目も食感も味も明らかに違うのに……。
僕はかわを一本平らげると、串の先端をつまんで持ち上げ、
「おばあ、ここになんて書いてある?」
と「かわ」と書かれた持ち手の部分を指さした。するとおばあは、こちらにチラッと目を向けて、
「なにって、そんなん、なんでもええやろ!」
と声を荒げた。
大声を出してムキになるなんて、本当はこれが鶏かわであることをわかっているんじゃないか!? だったらなぜ、焼き鳥はどれも同じだといい張るんだ?
「ほんまは、わかってるんやろ?」
と聞いてみると、
「わからん! そんな小さい字、見えへんわ!」
とおばあは怒鳴った。
そうなのか……。おばあは串に書かれた「かわ」という字が見えていなかったのだ。店では大きな字で示してあるはずだけど、それも見えていなかったらしい。だんだん目が見えにくくなってきたとは聞いていたけど、それほど視力が落ちていたとは……。
「これは、かわやで。焼き鳥というても、いろんなのがあって――」
僕の言葉をさえぎって、
「そんなん、わかっとるわ! 見えへんでも、食べたらわかるねん!」
とおばあが叫んだ
さっきわかってなかったやん! といいかけたけど、ぐっとこらえた。おばあは味の違いはちゃんとわかっているみたいだし、三串も完食したくらいだから鶏かわは口に合ったのに違いない。
おいしくものが食べられているうちは、まだまだ元気ということだ。しかも脂たっぷりの鶏かわがいいなんて、孫の僕以上に内臓は丈夫かもしれない。
僕も負けていられない! 二本目の串をつまみ、ごはんと交互に一気に食べる。さらに食べすすめ、やがて三本目の途中で「せめて塩だったらよかったのに」と、もたれはじめた胃腸の底から苦情の声が頭の中に響いてきた。僕はおばあに敗北したことを認めつつ、黙って残りの鶏かわを口に入れた。