おばあの巧みな戦略!? ホワイトデーにお返しを黙っていながらもらう方法

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ブリのアラや鶏肉の焼いたものなど、祖母(おばあ)がホワイトデーにつくった晩ごはんのメニュー

メニュー
・ブリのアラの焼いたん
・鶏肉の揚げ焼き
・焼き明太子のせごはん
・みそ汁
豆腐、白菜、ワカメ、ネギ
・煮物
里芋、手綱こんにゃく、たけのこ
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

今晩のメニューはいつもと違う。メインの料理が2つもあるのだ。

祖母がホワイトデーに作ったブリのアラを焼いたもの

ひとつはブリのアラを焼いたもの。

祖母(おばあ)がホワイトデーにつくった鶏肉の揚げ焼き

もうひとつは、大きめの鶏肉に「揚げずにからあげ」の粉をつけて焼いたもの。どちらも黒く焦げている部分があるのは、おばあが今日の料理に込めた強い思いの表れだろう。

今から1か月前の2月14日、おばあは僕に、普段は絶対に買ってこないおしゃれな箱に入ったチョコレートの詰め合わせをくれた。箱の中にはミルクチョコやビターチョコなど、味も形も違うチョコレートがきれいに並んで輝いていた。

僕は食後に一つずつつまんで口に入れ、じっくりと味わいながら半分近く食べた。その様子を目の前で見せつけられても、おばあは決して「ひとつくれ」とはいわなかった。おばあはチョコレートが大好物で、食べ過ぎて虫歯ができまくり、総入れ歯になったくらいなのによく我慢できたと感心する。

おばあはその後の、見返りを期待していたから耐えられたのに違いない。つまり今日3月14日、ホワイトデーのお返しを、1か月前から楽しみにしていたのだ。おばあが欲しいお返しというのは、甘い物だろう。

おばあはチョコレートやせんべい、羊かんなど、甘い物は自分で買ってきて、毎日さんざん平らげている。たまに晩ごはんで、白いごはんを食べないことがあり、おばあは「食べる気がせん」とうつむき加減でいう。あの食欲不振は、老化や病気のせいではなく、ただ甘い物を昼間に食べ過ぎただけ。いくら元気がないのを装っても、体重も血圧も下がらないからバレバレだ。

自分の歯を全て失っても甘い物を食べ続けている、超甘党のおばあは、人からもらった甘いお菓子が格別においしいことを知っているのだ。僕もおばあにサプライズでもらったチョコレートは、思った以上においしくて、つい食べ過ぎてしまった。

おばあは今日、僕から甘い物がもらえることを期待して料理に力を入れた。今晩のメインが2つあるメニューの理由は、たぶんそういうことだ。

焼き明太子をのせたご飯

ごはんには、焼き明太子までのっているし、

祖母(おばあ)がつくった味噌汁

みそ汁は普段より具だくさんで、お椀の底から汁の水面までびっしり豆腐やワカメ、白菜がひしめいている。

まずはブリのアラに箸をつける。表面の薄皮がやぶれ、透明なエキスがあふれ出し、真っ白な身が現れる。口に入れると、濃厚なブリのうま味がガツンと味蕾を刺激した。心配した苦味は全くない。一見、焼きすぎかと思ったけど、内側の火の通り具合はちょうどいい。

「それも、かけえや」
とテーブルの反対側からおばあが指さす。指の先には僕のサラダの器があり、その影になったところに「蒲焼のたれ」と書かれた小袋があった。

ブリのアラと鶏肉の揚げ焼きにかける蒲焼のタレ

どう見ても鰻の蒲焼用のこのタレを、ブリのアラにかけろということだろう。

蒲焼のタレをかけたブリのアラの焼いたもの

身をほじくってできた穴に溜まるほどかけた。タレがまだ余っていたので、

蒲焼のタレをかけた鶏肉の揚げ焼き

鶏肉の揚げ焼きにもたらしてみた。

甘味が強く、醤油の香りがする蒲焼のタレは、塩だけで焼いたシンプルなブリのアラにぴったり合い、うま味をさらに引き立てていた。ふっくら焼けた鶏肉も、「揚げずにからあげ」の粉が醤油ベースの味なので、合わないわけがない。濃いめの味付けになり、ごはんをかき込まずにはいられなかった。

僕もおばあも料理を食べ終え、台所に食器を下げた。しばらく座ってテレビを見ていると、おばあはどこからともなく黒い箱を取り出した。

祖母(おばあ)がホワイトデーに買ってきた森永製菓「カレ・ド・ショコラ カカオ70」

これは、僕が去年のバレンタインデーにおばあからもらったカレ・ド・ショコラ! そのカカオの割合が多い、カカオ70だ。おばあは箱を置いたきり、手をつけようとしない。

森永製菓「カレ・ド・ショコラ カカオ70」の中身

包みを開けて一つ口に放り込む。甘さ控えめのビターな味わい。普通のものより強く芳醇なチョコレートの香りがする。まさか、ブリのアラと鶏肉が焦げていたのは、チョコレートの苦味と関連づけるためにわざと……。プライドの高いおばあは決して「チョコレートが欲しい」なんて、言葉に出したりはしない。だけど語らずして、僕にチョコレートを要求しているのは明らか。

だったらもう、隠すことはできない。おばあもわかっているのだ。

僕は立ち上がり、玄関に向かった。寒い玄関にケーキを置いていたことは、おばあにはお見通しだったらしい。甘い物と金のにおいに、おばあはやたらと鼻がきく。

ホワイトデーにケーキ屋で買ってきたガトーショコラ

僕が買ってきたのは、見るからにこってりとして甘そうな、板チョコよりもチョコレートの味が濃そうなガトーショコラと、

ホワイトデーにケーキ屋で買ってきたモンブランショコラ

季節限定らしいモンブランショコラ。

どちらが食べたいかおばあに聞くと
「もう、食べられへんわ。晩ごはん食べたばっかりやで!」
と口ではいうものの、表情はゆるんでいる。さらに間髪入れず手を伸ばし、迷うことなくガトーショコラを手元に引き寄せた。

ホワイトデーにガトーショコラをスプーンで食べる祖母(おばあ)

はじめはスプーンで、三角形の先っぽの方から上品に食べていたけど、

ホワイトデーにガトーショコラを指を使って食べる祖母(おばあ)

指も使って、大きく切り取るようになり、

祖母が手を使って食べているガトーショコラ

また指を使い、

祖母(おばあ)がガトーショコラを手づかみで食べているところ

ついに完全に手づかみで、大きなひとかけをほおばった。僕がモンブランショコラを3分の1しか食べていないところで、おばあは吸い込むようにガトーショコラを食べきってしまった。

「ひと口くれんか」
とおばあがスプーンを伸ばしてきたので、黙ってモンブランショコラを差し出すと、大きな「ひと口」をごっそりと持っていかれた。僕はおばあに食べられたぶん、カレ・ド・ショコラをもう一枚口にいれた。さっきよりも苦味が増している気がした。

ガトーショコラとモンブランを食べ終えた空の皿