おばあ、何で「揚げずにからあげ」を揚げたんや? 唐揚げなのに豚肉なんや?

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一口トンカツや練り物を揚げたものなど、祖母(おばあ)が作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・トンカツ(豚肉のからあげ?)
・練り物の揚げたん
・白和え
・煮物
里芋、手綱こんにゃく、ちくわ、たけのこ
・サラダ
生:ミニトマト、春キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

こんがりと揚がった揚げ物が、皿に盛られて照り輝いている。手を近づけるとまだ熱いくらいの揚げたてだ。揚げ物は2種類、細長い練り物と、一口サイズの平たい肉。豚肉らしき肉のほうは、あられを砕いたようなつぶつぶの衣をまとっている。久々の「揚げずにからあげ」だ。これをまぶしてフライパンで焼けば、油を使わず唐揚げができる不思議な粉である。

ひと口カツのように見えたこの肉は、正確には豚肉のひと口唐揚ということになる。ところがひとつ箸でつまんで、
「これはなんや?」
とテーブルの向かい側のおばあに聞くと、
「トンカツや!」
不機嫌そうに声を荒げた。そんな当たり前のこと聞くな! とでもいいたげだ。僕は黙ってカツをつまんだままの箸を引き寄せた。

スーパーの同じ棚には、たしかパン粉入りの「揚げずにとんカツ」も並んでいるのに……。あえて「揚げずにからあげ」を使い、トンカツといい張るところに、おばあのただならぬ思いを感じる。細かなあられを散りばめたカリカリとした衣の食感を、おばあは気に入っているのだろうか。

いや、トンカツ用があることに気がつかなかっただけということもありえる。おばあは少し前まで新聞を読んでいたけど、今では老眼がすすんだからか、細かな文字を追う集中力がなくなったからかテレビ欄すら見なくなった。おばあはスーパーでもパッケージの文字を見ることなく、買いなれたものばかりを手に取っているのかもしれない。

揚げた練り物を箸でつまむ祖母(おばあ)

僕が揚げ物の皿を見ていると、おばあが練り物をひとつ箸でつまみ上げた。紅ショウガが混ざった練り物は、もともとさつま揚げのようにきつね色に揚がっていたようだ。それをおばあがもう一度、揚げ直したらしい。だから余熱でまだ熱く、色は二度揚げしたような濃い茶色なのだ。

だったら、油をたっぷり使って揚げていることになるじゃないか! ひと口カツのほうも、表面が油でてかてかと輝いている。皿に敷いてある油吸着シートには、カツの周りに油のシミができている。

「これ、油で揚げたんか?」
僕はさっきから箸でつまんだままのカツを持ち上げた。するとおばあは
「そうや!」
とまた声を張り上げた。そんな当たり前のことばっかり聞くな! とでもいいたそうだ。おばあはさらに機嫌を悪くしたようで、顔をしかめて口を開けると練り物をひと口、力強くかじり取った。

だって「揚げずにからあげ」は、油で揚げなくてもおいしくできるじゃないか! それをどうしてわざわざ揚げてしまったのか。油がもったいないし、処分するのにも手間がかかるし、僕は最近太り気味なのに余計な油で高いカロリーを摂取してしまう。揚げなくていいものを揚げてしまうなんて、無意味などころかマイナスだ。だけど僕は、ヘソを曲げたおばあを前にして、言葉をぐっと飲み込んだ。

油のことはともかく、カツも練り物もおいしそうだ。箸でつまんだままのカツを、ひとまず取り皿に置こうと思ったけど、見当たらない。

里芋やタケノコ、手綱こんにゃくなどの煮物

里芋やタケノコなどの煮物や、

祖母(おばあ)が作った白和え

手づくりの白和え、

祖母(おばあ)が毎晩作るサラダ

そしていつものサラダが入った皿はあるのに、空の取り皿がない。だったらもう、こうしてやる!

一口カツと練り物のカツをごはんに乗せたカツ丼

僕はカツと練り物を、ごはんの上に並べた。揚げ物・オン・ごはんなんて、確実に太りそうだけど、見た目はかなり食欲をそそる。まずはカツを口に運ぶ。薄いのにカリっとした衣の食感のあと、ほどよい弾力の豚肉が歯に触れる。そのまま力を入れると、油と肉汁がほとばしりながら噛み切れる。熱い! けどうまい! と思いながら、ごはんをかき込む。

「揚げずにからあげ」をまぶした豚肉を、あえて油で揚げることで、おいしい「トンカツ」ができる。それをおばあは、長年の調理経験にもとづいた勘によって察知していたのかもしれない。空の取り皿を用意しなかったのも、カツをごはんに乗っけて「カツ丼」にして味わうことを想定していたのではないか。

「このカツ丼、うまいな!」
僕が思わず口に出すと、
「カツ丼やて? なんちゅう食べ方してねん」
おばあはあきれたようにいった。そしてカツをつまむと、上下の総入れ歯でひと口かじり、バリバリと音を立てて噛み砕いた。