石川県人が愛する鍋「とり野菜みそごまみそ鍋スープ」で、バレンタインデー鍋!?

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「とり野菜みそごまみそ鍋スープ」で祖母(おばあ)が作った鍋

今日の晩ごはんも鍋。しかも2日前に食べた「ピリ辛とり野菜みそ」鍋と同じような味噌の香りがする。「とり野菜みそ」は、石川県で鍋といえばほとんど人がこれを連想するほど定番の、鍋の味付けに使う味噌だ。この前食べたものは、現地の知り合いから送ってもらった。

「一度食べたら病みつきになる」という話は本当だった。僕のおばあは、一昨日食べたばかりのあの味を求めて、今日も味噌味の鍋をつくった。嗅ぐだけで思わずごはんが欲しくなる味噌の香りはたしかに似ているけど、あの「とり野菜みそ」ではない。味噌だけでなく香ばしいゴマの風味が感じられるのだ。

近所のダイエーには「とり野菜みそ」は売っていない。おばあはゴマと味噌が入った別のメーカーの鍋の素を買ってきて、今日の鍋をつくったのだろう。別のものでも、嗅いでいるだけでどんどんお腹が減ってくるいい香りがする。

僕は箸を手にして、鍋に突き入れた。思った通りの弾力を箸先に感じる。土鍋の底には大量の豚肉が沈んでいた。2日前と同じだ。「とり野菜みそ」鍋は野菜もおいしかったけど、おばあが4パック分も入れた豚肉と牛肉は、最後には2人で取り合うほどの格別のおいしさだった。あのときの勝負は僕の勝ちに終わったから、負けず嫌いのおばあは早速リベンジをしようとしているのだろう。

ところが僕が肉の塊を箸でつかんでも、おばあは余裕の表情で、土鍋をはさんだ向かいの席から眺めている。うっすらと笑みさえ浮かべていて不気味だ。おばあは何か良からぬことを企んでいるのかもしれない。

とり野菜ごまみそ鍋スープで作った鍋など、おばあが用意した晩ごはんのメニュー

メニュー
・ゴマみそ鍋?
豚肉、春菊、白菜、マロニー、もやし、しめじ、えのき、
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

おばあの企みを詮索したところで時間の無駄。何しろ赤飯にカレーをかけることを思いつくおばあである。常識にとらわれた僕の発想力ではかなわない。それより、さっきからお腹が減ってたまらないので、ひとまずおばあのことは忘れて目の前の料理に集中することにする。

まずは取り皿の豚肉を口に運んだ。その瞬間、濃厚なゴマの香りが鼻に抜け、舌では甘味を感じた。2日前と同じように、味噌のうま味とほどよい塩気に豚肉の甘みが引き立てられている。そして後からやってきた香りは、あの「とり野菜みそ」そのものだ。時計でも自転車でも機能を追求すると、別のメーカー同士の製品でも形が似るというけど、味噌鍋の素もおいしいものは味が似るのだろうか?

一口目からたまらず僕はごはんをかき込み、すぐに取り皿は空になった。すかさず具材を盛りつける。そうして僕は、鍋の中身を食べすすんだ。具材を口に運ぶたびに、2日前に腹いっぱい味わった「とり野菜みそ」の味の記憶がよみがえってくる。

これはもう、「とり野菜みそ」が入っているとしか思えない。おばあはどうにかしてあの味噌を手に入れ、ゴマのペーストでも加えて独自の味付けをほどこしたのに違いない。さっきの意味ありげな笑みのわけは、そういうことだったのだ。

食事を終えた僕は、食器を持って立ち上がった。するとおばあがまた、口元だけで笑う不敵な表情をつくって僕を見上げた。「とり野菜みそ」の味がしたやろ、それになんやゴマの味もするやろ、ほんでおいしかったやろ、どうや驚いたか! とおばあの声が聞こえてくるようだった。

それが、食器を運んで行くと、台所のシンクにやたらと目立つ色合いの封が切られたパッケージが置いてあった。

まつやとマルサンがコラボした「とり野菜みそごまみそ鍋スープ」のパッケージ

やられた! と僕は声に出して叫びそうになった。今日の鍋は「とり野菜みそ」におばあが工夫をしたんじゃない。これ見よがしにシンクに置いてあるパッケージには、まつや「とり野菜みそごまみそ鍋スープ」とある。もともとこういう味の鍋の素を、おばあはダイエーより遠くのスーパーまで足を運んで見つけてきたのだ。

僕はおばあに頭の中を見透かされていた。さっきの鍋を食べて僕が何を思うかまで、おばあは読んでいて、それで怪しく笑ったのだ。そうだとすると、おばあに完全に優位に立たれた僕は完敗をみとめるしかない。おばあは2日前のリベンジを果たしたことになる。悔しいけど、今回はそういうことにしておこう。

食卓に戻ってくると、白い箱が置いてあった。
「開けてみい!」
とおばあがいう。開けなくても中身はわかった。

祖母(おばあ)がバレンタインデーに孫に買ってきたチョコレート「URBANITY」

Chocolateとローマ字で書いてある。チョコレート……そうか、今日は2月14日、バレンタインデー! おばあの笑みの正体はこれだったのか! バレンタインデーに縁のない僕に、チョコレートを用意して驚かせることが、よほど楽しかったのだ。そうなると鍋についてのあれこれは、僕の想像とは違うのか。それとも鍋とチョコレートの両方について、おばあは笑ったのだろうか。

祖母(おばあ)がバレンタインデーに買ってきたチョコレート「URBANITY」の箱の中

箱を開けると、形や色、大きさの違うチョコレートが整然と並んでいた。URBANITY(優雅、上品、都会風)なんて名前までついている。こんな洒落たチョコレートを、おばあはどこで選んで買ってきたのだろうか。

そういえば、去年の2月14日も鍋とチョコレートを食べた。この組み合わせも、おばあはあえてやっているのか。だとしたらどんな狙いがあるのか。

僕が想像をめぐらせていると、
「さっさと食うてみい!」
おばあの檄が飛んできた。

ひときわ黒いアーモンド型のチョコは苦く、そして甘かった。
「おばあもひとつ食うか?」
と聞くと、
「いらんわ!」
とおばあは珍しく、好物のチョコレートを口にしようとしなかった。