温泉帰りのおばあの土産!? 緑のわらびと玉ねぎの茎、つくしの佃煮、黒豆

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メニュー
・わらびとたけのこの炊いたん
わらび(緑)、たけのこ
・玉ねぎの茎と豚肉の炒めもの
玉ねぎの茎、豚肉
・つくしの佃煮
・黒豆の甘露煮
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

いつもよりおばあの肌にツヤがある。泊りがけで温泉に入ってきたからだ。場所は電車で一時間ほどの箕面温泉スパーガーデンこと箕面観光ホテル。二週間ごとに“女子会”をしている仲のいい近所の80代が、4人で揃って行ってきたそうだ。

おばあがいない夜、僕はひとりで〈日清のどん兵衛天ぷらそば〉を食べながら、箕面観光ホテルのウェブサイトを見ていた。数年ぶりに口にした〈どん兵衛〉は、天ぷらの厚みとサクサク感が増し、ダシの風味が強くなり、懐かしい記憶の味よりさらにおいしくなっていた。ところでおばあは友人のナカムラさんたちと、どんなものを食べているのだろうか。僕はサイトの〈食事〉のところまでページをスクロールした。

関西最大級のバイキング会場のライブキッチンは格別!昼は焼きたてステーキや昔ながらの牛トロ煮込み、夜は絶品ローストビーフや天ぷら、ハーゲンダッツ食べ放題など。思わず「また来たいね」の笑顔が溢れるバイキングです。

ライブキッチンだって!? しかも関西最大級の会場というくらいだから、大勢の客の目の前で、ローストビーフや天ぷらといった和洋織り交ぜた料理が次々とできあがっていくのだろう。別に羨ましくはない! 僕には後のせサクサクの天ぷらがある。大部分が衣だけど、僕にとって〈格別〉というのは、これがつゆに溶けたときの味わいをいうのだ。ただ、それをわかってくれる相手が目の前にいないのがすこし寂しい。

おばあたちは「また来たいね」なんていいながら笑いあっているだろう。食べ放題のハーゲンダッツを2つくらい、土産に持って帰ってきてくれないだろうか。などと思いながら僕はそばをすすっていた。

そして今晩、おばあのつくった夕飯を見て、僕はハーゲンダッツへの淡い期待を捨てさるべきかどうか迷った。料理は一見、いつもと変わらないようでいて、見れば見るほど普段との違いが際立ってくる。会場からハーゲンダッツを持ち出すのは無理だったにしても、おばあは土産を買ってきているかもしれない。

わらびとたけのこの煮物は先日も食べたばかりだ。だけど前回はわらびの色が真っ黒で、今日のは深い緑色をしている。小皿の茶色い佃煮はひとつひとつが、でこぼこした楕円形から長いものが伸びている。この形には見覚えがある。先日、近所の公園を散歩しているときにも見つけた、つくしだ。おばあはいままでつくしの佃煮なんてつくったことはない。

別の小皿では、おばあの家では正月くらいにしか食べない黒豆の甘露煮がつやつやと輝いている。豚肉と一緒に炒めてあるネギに似た緑の茎も、節が多く普通のネギではなさそうだ。箸でつかんで眺めていると、
「それは玉ねぎから伸びた茎や!」
テーブルの向かいの席からおばあがいった。なぜそんなスーパーで見かけたことのない食材があるのかと聞くと、
「ナカムラさんからもらったんや!」
とのこと。もしやと思って聞いてみると、やはりつくしの佃煮や黒豆の甘露煮、緑色のわらびもナカムラさんからもらったという。

「温泉に行ったついでに珍しいものを買ってきたんじゃないんやな?」
僕が念を押すと、
「そうや。ここから大して離れてへんのに、土産やらなんやら買ってこんでええやろ」
おばあは、そんなの当たり前やろ、とでもいいたそうだった。

ではなぜナカムラさんは、料理や食材をいくつもくれたのだろうか。僕への土産だろうか。おばあに聞いてみると、
「料理やわらびをくれたんは、温泉に行く前の日や!」
と声を荒げた。僕の立て続けの質問に、土産を買ってこなかった不満をいわれていると思い込んで不機嫌になったのだろう。それはそうとナカムラさんは、温泉に行く前日に、人にあげるために料理をつくり、わらびなどの食材も一緒に持ってきた。おばあと同じく、前の日から浮かれていたのだ。

おばあは完全にヘソを曲げてしまい、僕の呼び掛けにも答えなくなって、むっつりとした顔で食事を続ける。そのままひと言も発することなくおばあは食事を終え、食器を持って台所に向かった。戻ってきたおばあは、皮を包丁で割ったらしい大型の柑橘類と、カカオ70%のブラックチョコレートの箱を両手で抱えていた。土産の代わりに、デザートを持ってきてくれたのか。おばあの表情もさっきよりおだやかだ。僕は嬉しくなって
「そんなん、買ってきてくれてたんか!」
つい、大きな声が出た。するとおばあはまた険しい表情になり、
「ナカムラさんがくれたんや!」
と怒鳴った。温泉に浸かっておいしいものを食べて、蓄積したエネルギーがあり余っているようだ。それを無駄に発散させないよう、僕は黙ってデザートを食べた。