おばあがボケて買ってきた?謎の特上ダブルカツ丼!

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ついにおばあがボケてしまったのか?

居間にやってきた僕は、その場で立ち尽くした。いつもの晩ごはんの時間だというのに、テーブルには何も用意されていない。それなのにおばあは平然と席に着き、北朝鮮のミサイルが映るテレビ画面をボーっと眺めている。

晩ごはんの時間が来たということが、わからなくなってしまった……。そうだとしたらかなりの重症だ。人やものの名前とか、ちょっとした物忘れはしょっちゅうあったけど、急に時間の感覚が狂うほどボケてしまうとは……。毎日接している僕がどうして気づいてあげられなかったのか。ごめんよ、おばあ。

これまで僕が余計な一言を口走って、おばあを怒らせたときの光景が次々とよみがえってきた。最初は「これまで迷惑ばかりかけてきて悪かった」と反省する気持ちだったけど、振り返ってみると理不尽な怒られ方ばかりで何だか腹が立ってきた。すると、
「さっきから何、突っ立っとるんや! さっさと座れ!」
とおばあの怒鳴り声が聞こえてきた。うるさいわ! といい返したくなったけど、おばあの声は聞きなれたいつもの口調で、とてもボケているとは思えない。

ひとまず席に着くと、おばあは足元にあったビニール袋から、黒地に花柄の容器を取り出した。中身はずしりと重そうだ。

おばあが買ってきた特上ダブルカツ丼

容器には小さなシールが貼られている。書いてあるのは――「特上ダブルカツ丼」だって!
特上でダブル! 今まで特上のカツ丼なんて食べたことないぞ。それにダブルってどういう意味なんだ! 急いでラップを引きちぎり、フタをはぎ取ると、

祖母(おばああ)が買ってきた特上ダブルカツ丼のフタを取ったところ

タレが染みた茶色いカツに、たまごの白と黄のグラデーション。ごはんはカツで隠れて一粒も見えない。美しいとすら思える、見事なカツ丼だ!

おばあは晩ごはんを忘れていたどころか、とんでもないものを隠し持っていた。こんなうれしいサプライズは大歓迎。いや、料理はこれだけじゃない! おばあはまた何か袋から取り出したぞ。

祖母(おばあ)が買ってきたお好み焼き(豚玉)

お好み焼きだ! 見るからにふっくらと焼き上がり、ソースの香りが食欲をそそる。どうなっているんだ。かなり食べごたえがありそうな特上ダブルカツ丼に加え、こんなおいしそうなお好み焼きまで買ってきているなんて! 何かいいことがあったのかもしれない。どんなできごとか気になるけど、まずは今日の特別メニューを味わいたくてたまらない。いや、待てよ、おばあはまた袋の中に手を突っ込んでいる。出てきたのは、

祖母(おばあ)が買ってきた食べかけの握りずし

握り寿司だ! マグロ、エビ、イカ、タイという王道のネタで、特にマグロはいいものを使っているのがその輝きからわかる。ただし容器はやけにスカスカだ。おばあが半分くらいつまんだのだろうか。そういえば、カツ丼もお好み焼きも僕の分しかない。おばあは寿司をつまんだだけでお腹いっぱいなのか。

カツ丼とお好み焼きと寿司

メニュー
・特上ダブルカツ丼
・お好み焼き(豚玉)
・握りずし(おばあの食べかけ)
マグロ、エビ、イカ、タイ

「今日の晩ごはん、どうしたんや?」
と聞かずにはいられなかった。するとおばあは、
「今日は、食事会や!」
と答えた。

食事会というのは、月に2回ほど開催する80代だけの女子会のことだ。少し前までは手づくりの料理を持ち寄っていたけど、最近は面倒なので料理を買っているらしい。女子会の日にはおばあたちが食べたのと同じものを、僕の晩ごはんに持って帰ってきてくれる。ということは、今日の女子会でおばあたちは、こんな豪華さも量もハンパないメニューを食べたのか!

まだまだ聞きたいことはあるけど、大好物ばかりが並ぶ夢のような光景を目の前にして、もうじっとしていられない。わりばしをつかんで、両手で引きちぎるように割り、カツ丼に差し込む。

祖母(おばあ)が買ってきた特上ダブルカツ丼の中身

カツを一切れつまんで口に運ぼうとしたとき、異変に気づいた。持ち上げたカツの下に、なんとまたカツがある! そうだ、これは――

特上ダブルカツ丼のダブルカツとごはん

ダブルカツ丼だった! ダブルというのはカツが二重になっていることをいうのだ。
「おばあ、よくこんなダブルカツ食べたな!」
思わずいうと、
「ダブルはお前だけや!」
と怒鳴られた。

おばあは僕のために、自分が食べたものよりもさらに上等なものを買ってきてくれたのだ。ありがとう! そしてごめんよ。僕はついさっき、本気でおばあがボケたと思ってしまった。毎日怒鳴られっぱなしでムカつくこともあるけど、僕のことを考えて料理を用意してくれている。そんなおばあが簡単にボケるわけがない。感謝の言葉を口にしようとしたとき、
「さっきからカツ丼じっと見て、何やってんねん! さっさと食えや!」
とまたおばあの怒声が飛んできた。うるさいわ、ボケ! 今から食うところや! と思ったけど、今日ばかりは何もいわずにカツをかじった。