春だから?おばあの食欲が爆発!魚と肉のフルコース!鯛とカンパチの刺身、豚肉の味噌漬け

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カンパチの腹身や鯛の刺身、豚肉の味噌漬け焼きなど、祖母(おばあ)が作った晩ごはん

メニュー
・鯛とカンパチのトロの刺身
・豚肉の味噌漬けの焼いたん
・煮物
タケノコ、厚揚げ、手綱こんにゃく
・酢の物
タコ、キュウリ、ワカメ
・茹でもやし(じゃこ乗せ)
・ごはん

祖母(おばあ)が魚屋で買ってきた鯛の刺身

一目で〝いいもの″だとわかる、プリっとした張りのある肉厚の白身。全体がツヤツヤと輝き、下に敷いた大葉の緑色まで透き通って見える。その白身の乳白色に映える、皮目の赤いラインといえば……鯛! すごいぞ、おばあ、なんておいしそうなものを仕入れてきたんだ!

カンパチの刺身。腹身の脂が乗ったところ

そしてこのカンパチ、マグロでいうところのトロだ。細長い腹側の身には脂が乗り、開花したての桜の花びらのような薄いピンク色に染まっている。たまらず一切れを醤油にちょっとつけて、口に入れると、ほんとりと甘い! 脂が口の中に溶けて広がっていく。

噛むとはじめはコリっとした歯ごたえがあり、サクッと切れる心地いい食感。おばあも向かいの席で、もぐもぐと総入れ歯の口を動かして、じっくりと味わっている。

カンパチの刺身は、おばあの好物。目利きの店主がいる商店街の魚屋で、とびきり上等な好物の刺身を、奮発して買ってきたのだ。

それにしても、なぜ? おばあも僕も誕生日じゃないし、おじいの命日でもない。
「今日、なんかあったんか?」
とたずねると、おばあは口の中のものをゆっくり飲み込んだあと、
「……別に、なんもないわ!」
と大声でいった。好きなものを食べているときに、話しかけて邪魔をするな! と怒っているようだ。

特別な記念日でも、いいことがあったわけでもないなら、一体なんなんだ!?

今日は絶対何かある! というのも、高級そうな刺身以外にも――

豚肉の味噌漬けを焼いたもの

じゅうぶんメインのおかずとして通用する、焼いた豚肉まである。しかも食欲をそそる香ばしいかおりが立ち上っている。ひとつ食べると、猛烈にごはんが欲しくなる、……味噌漬けだ! たぶんこれも商店街の肉屋か総菜屋で買ってきたのだろう。鯛とカンパチの刺身があるのに、どうして。

メインのおかずが2つもあるのに、いつも欠かさない一皿が見当たらない。
「おばあ、サラダは?」
と恐る恐るきいてみると、
「ああ……忘れとった! もう今日はええやろ」
と開き直ったような返事。

おばあは晩ごはんに、サラダをほとんど欠かしたことがない。やっぱり何かありそう……それとも、物忘れがひどくなっているだけなのか!? 魚屋で刺身を買ったことをド忘れし、総菜屋で豚肉の味噌漬けを買っていたとしたら……。それはそれで辻褄が合う気がするけど、おばあがボケてきたなんて、考えるのも恐ろしい。

ひとまず、考えることはやめよう。と決めて、目の前の料理を食べすすめる。

刺身と豚肉の脇を固める、定番のおかずもいい感じだ。

祖母(おばあ)が作ったタケノコと厚揚げとコンニャクの煮物

タケノコがごろごろ入った煮物に、

じゃこを乗せた茹でモヤシ

じゃこを乗せた茹でもやし、

祖母(おばあ)が作ったタコとキュウリとワカメの酢の物

そして酢の物という組み合わせ。サラダがなくても野菜が多くて、じゅうぶん健康的だ。

メインのおかずと、名脇役たちを交互に食べ進めていく。もちろん刺身は、ひとずつ噛みしめながら味わう。やがて、食器は空になり、至福の時間が終わると――

祖母(おばあ)が夕飯を食べ終わった後の食器の山

僕はおばあのぶんも、食器を台所のシンクに運んだ。

そして食卓に戻ってくると――

きな粉をまぶした草餅を祖母が持っているところ

おばあがなにやら、透明な容器に入ったものをテーブルに並べていた。中に入っているのは――

イチゴ大福が入った容器

真っ赤ないちごが飛び出しているいちご大福に、

春先に食べたきな粉をかけた草餅

きな粉に半分埋まっている、丸くて緑っぽい色の……草餅だ! 刺身や豚肉だけじゃなくて、食後のデザートまであったのか! しかもおいしそうな和菓子が2品も。ますますわけがわからないけど、
「今日は豪華やな。ありがとう」
とおばあに感謝した。

「これ、うまかったわ。いるなら食えや」
おばあが、そっけない口調でいった。おいしいから食べてみて! と素直にすすめないところがおばあらしい。

和菓子はすでに数が減っている。午後のおやつタイムにでも、おばあがつまんだのだろう。それにしても、すごい食欲だ。ずしりと重そうな草餅はひとつ、いちご大福にいたっては――

祖母(おばあ)が春先に買ってきたイチゴ大福

4つぶんはスペースが空いている。これだけ平らげておいて、メインが2つもあるフルコースを食べられるとは。なぜだ、おばあ、どうして84歳にもなって僕と同じ、いやそれ以上の食欲を発揮できるんだ!

「なんで、こんなに食べられるんや?」
と思わず聞くと、
「春やからや!」
即座に元気な声が返ってきた。そうか! 春だからか! と妙に腑に落ちた。まだちょっと寒い日はあるけど、おばあは自分の食欲で季節を感じているんだ。この前の、桜が満開の日のおでんにつづき、おばあはその食欲を満たすことで春という季節を楽しんでいるのだ。

「お前、いらんのか?」
といいながら、せっかちなおばあは、容器のフタを閉めようとする。僕は慌ててピンクのいちご大福を手に取った。しっとりとした求肥につつまれた餡はしっかりと甘く、酸味のあるいちごがよく合っている。重そうな草餅は、とても食べられないと思っていたけど、手を伸ばさずにはいられなかった。