マグロのトロにサンマまで!おばあがはしゃぐ、台風前夜のスペシャルメニュー

スポンサーリンク

マグロの刺し身やサンマの塩焼きなど、祖母(おばあ)が作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・マグロの刺し身
・サンマの焼いたん
・じゃがいもの炊いたん
・たまご焼き
・サラダ
生:玉ねぎ、トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

大きな台風が大阪に直撃する。滅多にない状況に、おばあははしゃいでいる。そうじゃなかったらこんなメニューを出すはずがない! この前の地震のときも似たようなことがあった。

祖母(おばあ)が買ってきたマグロのトロの刺し身

まずこの刺身の宝石のような輝きはただごとじゃない。見るからに脂が乗ったうすピンクは、マグロの……トロ、やっぱりトロなのか! こいつを口にするのはいつぶりだろうか?

このトロ、そんじょそこらのトロじゃない。おばあがひいきにしている商店街の目利きの魚屋が仕入れたものだ。そこらのスーパーでマグロの刺身を買うと、ドリップが染み出て白いツマが赤くなる。それがまったくない。刺身自体の輝きといい、質がいいのは一目瞭然。だからこそ気軽に買ってこれるような代物じゃない。

たまらずちょっと醤油をつけて口に放り込むと、もう最高! 顎にほどんど力を入れなくてもすりつぶされ、とけていく。そのあいだ思わず目をつぶって味わってしまうほどうまい! この一品さえあれば、他のおかずはなくてもいいくらいだ。それなのに――

祖母(おばあ)が焼いたサンマ

サンマを一緒に出すとは……。少々焼きすぎてはいるものの、食欲をそそる香りを放っている。脂の乗ったサンマは焼き魚の中でもとびきりうまい。普段ならじゅうぶんメインのおかずだ。ところが今晩は主役の引き立て役でしかない。なにしろ上等なマグロのトロがある。このピンクの宝石の存在感に勝るメニューなんてちょっと思いつかない。おばあだって、そんなことわかっているはず。脇役になることを承知のうえでサンマの塩焼きを出すとは、なんて贅沢なんだ!

こんな献立、かなりテンションが上がっていないとできるものじゃない。おばあは台風が襲来することを、小学生みたいに面白がっているのだ。
「すごいな! 今日は魚がえらい豪華やなあ」
と大げさに感心してみせると、
「そうか?」
とおばあはすました顔。口の端が笑っていて、よろこんでいるのがバレバレだ。さらにいいわけするように続ける。
「明日は台風来るから、魚屋が休むんやと。そんで店に魚があっても悪うなってまうから、ようけ買うて欲しいていうんや。せやから買うてやったわ!」
なんという上から目線……。ひいきの魚屋を助けるために奮発して、1年に1回買うかどうかのマグロのトロを買ってきただって? いくらなんでも無理がある。あくまでシラを切るつもりかおばあ! だったらこのおかずはどう説明するんだ!

祖母(おばあ)が作ったじゃがいもの煮っころがし

しょっちゅう出てくるじゃがいもの煮物はいいとしても、

祖母(おばあ)が焼いた玉子焼き

たまご焼きなんて、おかずが寂しいときにしかつくらないじゃないか。今晩は2品の魚があれば、見た目も味も豪華すぎるくらいだ。ダメ押しにもう一品つくらずにいられないほど、気分が高ぶっていたのだろう。そこで何気なく冷蔵庫を開けてたまごを見つけ、ノリノリでたまご焼きをつくりはじめるおばあ。という流れがはっきりと頭に浮かぶ。やっぱりおばあは台風ではしゃいでいるのだ。

とはいえ、こんなスペシャルメニューを用意してくれたおばあを問い詰めてまで、真実を明らかにしようとは思わない。料理のおいしさに比べたら、僕の疑問なんてちっぽけすぎる。魚屋のためでもなんでもいいから、またこんなメニューが食べたい! 一口ずつ味をかみしめながら食べ進める。

すべて平らげると、お腹も心もすっかり満たされていた。
「うまかったわ」
しみじみと感想を口にした。すると先に食べ終えていたおばあが、テレビを見ながらにやりと笑った。そうだ、今ならあれを食べても許されるかもしれない! と僕は突然、ひらめいた。

早速台所に行き、冷凍室を開ける。この奥に一つだけ、スペシャルなものが隠されているのを僕は知っている。

祖母(おばあ)が冷蔵庫に隠していたハーゲンダッツのアイスクリーム(クッキー&クリーム)

ハーゲンダッツのアイスクリームだ! 量が少ない上に値が張るから、おばあもなかなか買ってこない。最後にいつ食べたか思い出せないけど、このクッキー&クリームがものすごくおいしかったのは覚えている。さすがはおばあだ、お目が高い。

ハーゲンダッツのクッキー&クリームのフタを開けて食べるところ

フタを開けて、さあ食べようとスプーンに手を伸ばすと、
「黙って何食べてんねん!」
とおばあが声を荒げた。今なら見てみぬふりをしてくれるだろうと期待した僕が甘かった。

ここは、スペシャルメニューをつくってくれたおばあに譲ろう、と思ったけど、おばあが手を伸ばして奪い取ろうとしてきた瞬間、反射的にカップとスプーンを掴み、アイスを口に入れていた。