おばあが待ちきれない甘辛い味! ひと月に1回、恒例の酢鶏(酢豚じゃないよ)

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メニュー
・酢鶏
鶏の唐揚げ、玉ねぎ、たけのこ、パプリカ(赤、黄、緑)
・たけのこの炊いたん
・コロッケ(商店街の惣菜屋)
・大根おろし
大根、じゃこ
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

おばあは必ずひと月に一回、“酢鶏”をつくる。酢豚用のパック入り甘酢あんを使った味付けは酢豚そのもの。ただしメインの肉に、揚げた豚肉ではなく、商店街の惣菜屋で買ってきた鶏の唐揚げを使っている。唐揚げや玉ねぎなどの具材を切って、炒めて、市販の甘酢あんをからめるだけでできるので、いちから酢豚をつくるより調理の時間と工程を大幅に短縮できる。

酢鶏と一緒に食卓に並ぶメニューも、冷蔵のシュウマイや前日の煮物の残りといった簡単に用意できるものばかりで、普段より品数も少ない。油で揚げたり長時間煮込んだり、手間のかかる料理は面倒だけど、出来合いのものだけでは味気ない。毎日料理をつくっていれば、そういう気分になる日が一ヶ月に一回の割合でやってくるのかもしれない。そこでおばあは惣菜を利用して簡単につくれる酢鶏を思いつき、定期的につくるようになったのだろう。

そう思っていたのだけど、今晩のメニューはいつもと様子が違う。これまでは酢鶏の他におかずが一品だけだったのに、大根おろしやたけのこの煮物、商店街の惣菜屋で一番人気のコロッケまである。酢鶏と大根おろしという組み合わせは以前もあったけど、そのときはサラダを除くと他におかずはなかった。

大根をすりおろすには力がいるし、たけのこを煮るならアクを抜く下処理が不可欠だ。たけのこの煮付けをひと口かじってみる。独特の心地いい食感を残して、やわらかくなるまで火が通り、うす口醤油ベースの味がしっかりと染み込んでいる。アクの渋さは一切ない。

つづいて酢鶏の唐揚げを口に運ぶ。大きめに切られた唐揚げは食べごたえがあり、衣が甘酢あんを吸っていて、いつもの濃いめの味がする。こちらにもたけのこが入っている。冬の間は真空パックの水煮のたけのこを具材に使っていたけど、今日は噛むと軽く音を立てるほどの歯ごたえがある。今が旬の生のたけのこを調理したのだ。たけのこが新鮮で、今日の酢鶏は特においしい。テーブルをはさんで向かいに座るおばあも、脇目もふらず酢鶏の具材をほおばっている。

辛めの大根おろしは口の中に残る、すこししつこい甘酢あんの後味をリセットしてくれる。ここでコロッケを食べる。惣菜屋のいち推しのコロッケは、あとから余計な味付けをしないほうが、じゃがいもや玉ねぎの素朴な甘味を存分に味わえる。

食事を終えて、食器を持っていこうと台所の方に向き直ると、壁にかかった日めくりカレンダーが目に止まった。今日は5月1日だ。

おばあは決まって、ひと月に一回しか酢鶏を出さない。頻繁に同じ味を口にして飽きないように、つくる間隔を開けているのだろう。頑固者のおばあは融通はきかないけど、一度決めたことはきっちり守る。

4月も前半に酢鶏が出た。それからおばあは、酢鶏が食べられる5月が待ちどおしかったらしい。だから月が替わって真っ先に、解禁となった酢鶏を、張り切ってつくったのだろう。いつもよりおかずが多く、生のたけのこまでつかっていることがその証拠だ。

「一月に一回といわず、もっと酢鶏つくってもええやん」
僕がいうと、おばあは何も聞いていないふりをして
「さっさと食べた食器、流しに持って行け!」
とテレビに目を向けたままいった。おばあが一瞬、うれしそうに微笑んだのを僕は見逃さなかった。