フィットネスに通うおばあの、筋肉強化フルコースはタンパク質たっぷり

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・鶏肉とホタテの焼いたん
鶏肉(手羽元、手羽)、ホタテ
・クノール(インスタントのコーンクリームスープ)
「クノールスープ」コーンクリーム、コーン(缶詰)、牛乳
・納豆
納豆、卵黄
・野菜
生:トマト、キャベツ、きゅうり 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

ところどころに焦げめのついた、クリーム色の食材が山盛りになっている。骨付きの鶏肉とホタテだ。この2つが同じ皿にどっさりと盛られているのをはじめて見た。どっちも嫌いじゃないけど、なぜこの組み合わせなのだろうか。色はそっくりだし、見た目の問題ではなさそうだ。

一緒に並んでいるのは卵黄入りの納豆と、おばあが「クノール」と呼ぶコーンクリームスープ。「クノール」はいつもインスタントの粉末(メーカー問わず)を、湯を沸かした片手鍋で溶かし、たっぷりの牛乳と、缶詰のコーンを入れている。

牛乳、卵黄に納豆。そして鶏肉とホタテ……何だか共通点が見えてきた。

おばあは週に3回、「体操」に通っている。2年ほど前に、はじめてそう聞いたときは、近所の公園で早朝にラジオ体操でもやっているのかと思った。ところがしばらく経って、おばあの家のトイレで、筋トレをすすめる標語が書かれたカレンダーを発見した。すべてのページをめくってわかったのは、このカレンダーを配布しているのが、女性だけが入会できるフィットネスクラブということ。しょっちゅう関節が痛いと嘆いている82歳のおばあが、フィットネスクラブで汗を流しているなんて想像できない。

おばあに聞くと、たしかにそこに通っているという。やっていることはエアロビクスのような運動をイメージしていたけど、どうやらインストラクターの指導のもと、軽めの筋トレをさまざまな器具を順番に使ってこなしているようだ。通っている人の中で、おばあが最高齢らしい。とはいえ70代や60代の人も珍しくなく、年齢層はけっこう高い。だから僕はそのクラブを「おばあフィットネス」と呼んでいる。

高齢者は筋力が低下して、転びやすくなったり、寝たきりになったりする。おばあがまだ元気で台所に立ってくれるのは、「おばあフィットネス」に週に3回欠かさず通い、筋力が維持できているからだと思う。ただし、筋肉をつけるにはトレーニングだけではなく食事も重要だ。僕はこれまで、部活でも趣味でも運動らしい運動をほとんどしたことがないけど、タンパク質が筋肉のもとになることくらいは知っている。

山盛りの鶏肉とホタテを前にして、僕はスマホで食品の栄養を検索した。肉は鶏肉が、豚肉や牛肉よりもタンパク質が多く含まれているという。牛乳や卵黄もタンパク質は豊富だ。貝殻を開け閉めする筋肉、貝柱が大部分を占めるホタテは、タウリンという筋肉の疲労を回復する物質をたっぷり含んでいる。納豆の原料である大豆には植物性のタンパク質が多い。

やっぱり想像した通り。今日は筋肉強化のフルコースメニューだ。おばあは今日か昨日くらいに、いつもより激しい筋トレをやったのかもしれない。テーブルの向かいで、手づかみで骨付きの鶏肉にかぶりついているおばあの姿は荒々しく、激しいトレーニングを終えた運動部員の食べっぷりを思わせる。運動部員だったことはないから、一度も実物を見たことはないけど。

おばあは納豆が嫌いだから、僕より一皿少ない。たしかに納豆がなくても、じゅうぶんに筋力強化ができそうなメニューだ。だけどわざわざ僕に、卵黄入りの納豆を出したというのは……理由はひとつしか思いつかない。

食事を終えて僕はいった。
「何か運動するよ。明日から」
「そうか」
おばあの返事はそっけなかった。ただ、深くうなずいた顔は満足そうだった。