僕が晩ごはんを食べにやってくると、おばあが待ち構えていたようにイスから立ち上がった。そしてまっすぐ台所に向かって行く。すり足だけど上半身にブレがなく、どういうわけか剣の達人みたいな凄みがある。
おばあの気迫に圧倒されつつ後を追うと、ガスコンロにはお湯がぐらぐら沸き立つ片手鍋が!?
その取っ手をつかみ、おばあがお湯を注ぐのは――
カップのマルちゃん正麺!
今晩は久しぶりのカップラーメンだ! ちょうど寒くなってきた今の時期にラーメン! しかもマルちゃん正麺とは……完璧なチョイスやで、おばあ!
それにしても、お湯を注ぐくらい僕にさせて、自分は座ってくつろいでいたらいいのに!? それどころか、おばあの動作には有無をいわせない気迫が感じられる。カップラーメンのときですら“料理は人にはまかせられへん”というプライドが、そうさせるのか!?
「待つのは、5分やで」
それだけ告げて席に戻っていくおばあの背中が、何だか頼もしい。たしかに僕がお湯を注ぐより、おいしいラーメンになった気がする。
僕がマルちゃん正麺のカップを持って席に戻ると、テーブルには――
華やかな彩りの弁当が!
メニュー
・マルちゃん正麺
カップ 芳醇こく醤油
・女子会の弁当
・生ピーマンと茹でほうれん草
おばあは今日、近所の80代同士が昼から集まって楽しく飲み食いする『女子会』に参加していたらしい。そのときみんなで食べる弁当を、毎回僕のぶんまで持って帰ってきてくれる。
今日の女子会弁当は、色合いも食材も秋を感じられる“ちょっといいやつ”だ。この弁当だけでも充分すぎるくらいなのに、マルちゃん正麺や――
いつもの生ピーマンと茹でほうれん草まであるなんて! おばあは女子会で楽しんできた日も、必ず一品は手づくりのおかずを用意し、栄養バランスまで気づかってくれている! そうか、台所でみなぎっていたあの気迫の源は、おばあの優しさか!