魚の名は。「おばあ、その名前、ほんまに合ってるのか?」 ヒラメの干物!?

カマス(魳)の干物、大根おろしなど、おばあが作った夕飯のメニュー

メニュー
・ヒラメ??の干物の焼いたん
・買ってきた総菜
レンコンの肉詰めと鶏のから揚げ(甘酢あえ)
・大根おろし
大根、乾燥小エビ
・みそ汁
豆腐、白菜
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

腹開きの魚の全体が、ほどよく水分が抜けて締まっている。うすい焼き色のついた表面は固く、箸を刺すとぱりぱりと軽い音を立て、裂けめから真っ白な身があらわれた。口に入れるとちょうどいい塩加減。噛めばじわっと脂が染みだす。

思わず茶碗に手が伸びる。湯気を立てるごはんをかき込めば、もう、最高! おばあはほかにもおかずを用意してくれているけど、この魚の開きとごはんだけが食卓に並んでいたとしても、僕は文句をいわない。それくらいごはんに合っている。

胴体がさんまのように細長く、顔は突き刺さりそうなほど鋭い。たしかこの魚は、カマ――
「ヒラメやで! その魚!」
おばあが叫んだ。よほど自信があるのか、僕の向かいの席からテーブルに乗り出している。

僕が夕飯に並ぶ魚の名前を聞いても、おばあは答えられないことがよくある。それが悔しいらしく、おばあは最近、買ってくる魚の名前をチェックしてくるようになった。

でも、ヒラメの干物なんて聞いたこともない。日本のどこかでつくっている地域もあるかもしれないけど、おばあが近所の商店街でこれまでに買ってきたことは一度もない。そもそも全身が平べったく両目が同じ面についている特徴的な姿をしたヒラメと、この目の前の干物になった魚は、明らかにかたちが違う。

山育ちで魚の名前をあまり知らないおばあでも、ヒラメの見た目くらい知っていそうなものだ。
「なんでこの魚がヒラメってわかるんや?」
僕は負けず嫌いのおばあのプライドを傷つけないように質問した。
「商店街の魚屋が、そういうとったんや!」
とおばあは答える。おばあがひいきにしている商店街の魚屋といえば、店主が入院していて休業中のはず。おばあは一週間ほど前、店主が入院する直前に見舞いの代わりとして尾頭付きの鯛を、その魚屋で買ってきた。あのとき一緒に、魚の干物も買ってきたのだ。

日にちが経って、魚屋の言葉をおばあは忘れてしまったらしい。さっき僕が聞くより先にテーブルに乗り出し、大声で魚の名前を叫んだのは、自信のない答えを勢いでごり押ししようという裏返しの行動だったのに違いない。その証拠に、さっきからおばあは話すときに威勢よく大声を出しているのに、僕に目を向けようとしない。

「この魚は……」
僕は正しい名前を口に出しかけたけど、ぐっとこらえた。おばあは一週間ほどまえの魚屋の言葉を覚えていないくらいだから、僕が伝えたとしてもまたすぐに忘れてしまうだろう。さらに、魚の名前を知らないこと、そして一度聞いた内容が記憶から抜け落ちてしまったことを自覚させられたおばあは、二重の意味で自尊心が傷ついてしまう。
「この魚、うまいな。また魚屋にいうて、同じやつ買ってきてや」
僕は話そうと思っていた内容を軌道修正し、おばあに頼みごとをした。これもまた本心だった。
「魚屋がまた店、開けたらな」
おばあは顔を上げ、僕に目を向けていった。魚屋の店主は早く退院して、おばあにこの魚の本当の名前を教えてほしい。そしてまた、この干物も味わえるようにと願いながら、箸で白い身をほじくって口に入れた。