「たけしの家庭の医学」と「ガッテン」を欠かさない、おばあがつくる筋肉増強メニュー


「たけしの家庭の医学」と「ガッテン」を欠かさない、おばあがつくる筋肉増強メニュー

焼いたホタテ、ソーセージ、冷ややっこ、煮物など、おばあがつくった夕飯

メニュー
・ホタテの焼いたん
・ソーセージの焼いたん
・冷奴
絹ごし豆腐、カツオ節
・煮物(2日目)
レンコン、かぼちゃ、じゃがいも
・味噌汁
玉ねぎ、豆腐
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

山盛りの焼いたホタテにソーセージ、そしてカツオ節がのった冷奴。どれも筋肉のもとになるタンパク質がたっぷりのメニューだ。ダイエットのためにはじめた筋トレの効果が上がるのでうれしい。

昨日見たテレビ番組、「たけしの家庭の医学」の情報をさっそく生かして、おばあは料理をつくったらしい。番組は「認知症を予防&血管の老化を止めるSP」と題して、健康をたもって長生きする方法を3時間も放送していた。その中で、高齢者が寝たきりにならないためには、筋肉をつけて足腰を丈夫にするタンパク質などの栄養素をとるようにと、医者とビートたけしがいっていた。

「もう、いつあの世にいってもええ」と口走るようになったおばあが死ぬことよりも恐れているのは、足腰が弱って寝たきりになることだ。「人の世話になって長生きするくらいなら死んだほうがええ」とまでいう。だからおばあは足腰を鍛えるために、“おばあフィットネス”に週3で通い、筋トレにはげんでいる。

そしてもう4年以上、筋トレを続けているのに、おばあには筋肉がついてきた実感がないそうで、「腹回りに肉がつくばっかりや」となげいている。それもそうだ。おばあは筋肉がつくようなものをあまり食べない。鶏肉や魚は好きだけど、僕がいなければごはんと味噌汁だけで済ませてしまう。飴やチョコレート、せんべい、ハーゲンダッツのアイスクリームなど、家にいるあいだじゅう間食を止めないので、そもそも食事の量が少ない。僕がいくらタンパク質の多いものを食べるようにすすめても「もうすぐ死ぬんやから、好きなもんしか食わへん」と強情を張って聞く耳を持たない。

そのおばあがようやく、筋肉をつけるためにはタンパク質が必要だとわかってくれた! 番組で解説していた医者とビートたけしのおかげだ。

ホタテをひとつ、箸でつまんで口に入れる。表面は油で軽く揚げたようにカリカリとして香ばしく、味付けはシンプルに塩のみ。ジューシーな貝柱は噛めば噛むほど、海の滋味がつまったエキスがしみだしてくる。

「ホタテ、うまいなあ」
テーブルの向かい側に座るおばあにいうと、
「そうか。そりゃあ、よかったな」
とひとごとのような返事。おばあも食べているのではないのか。

おばあの前に並んだ料理に目をやると、おかずの皿が少ない。山盛りの焼いたホタテもソーセージも、カツオ節がのった冷奴もない。味噌汁とサラダと煮物だけだ。タンパク質をとって足腰に筋肉をつけ、寝たきりになるのを防ぎたかったのではないのか。

おばあが食べているおにぎり

さらにごはんの入った茶碗はなく、主食は味付けのりを巻き、ラップでつつんだ小さなおにぎりがひとつだけ。

「食欲がないんや。こんなもんしか食われへん」
とおばあは力なくいう。やけに弱々しいしゃべり方で、連日の猛暑で夏バテ気味だとアピールしているようだ。でも、僕は知っている。おばあは塩飴と黄金糖とハッピーターンをたらふく食べている。なぜわかるのか。それは、おばあの席の足元にある、ゴミ箱の中が、色とりどりのロゴが印刷された透明な包み紙でいっぱいだからだ!

昨日おばあはあれほど真剣に「たけしの家庭の医学」見ていたのに、肝心な情報は何も頭に入っていない。足腰の筋力よりも、先に脳の認知機能を改善しなければ何を見ても効果はなさそうだ。

おにぎりをほおばっていたおばあが突然、テレビのリモコンに片手を伸ばした。画面に現れたのは「ガッテン GATTEN」の文字。おばあが毎週欠かさず見ているNHKの生活情報番組だ。テレビ番組の内容は覚えていないのに、健康について取り上げる番組が何曜日の何時から、どのチャンネルでやっているのかだけは熟知しているのが不思議だ。

今日の「ガッテン」のテーマは膝痛である。おばあは椅子から立ち上がるたびに「膝が痛い」と顔をしかめる。“おばあフィットネス”に行っても、足腰のトレーニングを膝の痛みが邪魔をしてくるという。

おばあはおにぎりを手に持ったまま回転椅子をテレビに向け、呆けたように口を半開きにして目を輝かせている。僕が食事中、テレビに集中していると怒るくせに……。

テレビでNHKの「ガッテン」をみるおばあ。この日は膝痛がテーマ

「ガッテン」が教える膝痛解消のエクササイズはかなり簡単だった。床に足を伸ばして座り、太ももに力を入れて膝の裏を伸ばすだけ。これを3分間、朝晩に一か月ほど続けることで効果が出るらしい。簡単すぎて本当に効果があるのか疑うかもしれないけれど、やってみることが重要だと立川志の輔がいっていた。

だけどおばあは実際にためしてみようともしない。たまにおにぎりをかじりながら、じっとテレビ画面を見続けるだけだ。

僕は居ても立ってもいられず席を立ち、おばあとテレビの間の畳に足を伸ばして座った。
「おばあ、こうするんや。やってみいや!」
僕は太ももに力を入れながら、おばあを見上げた。おばあは椅子の背もたれにふんぞり返り、顔はテレビに向けたまま、馬鹿にするように目だけで僕を見下ろした。
「テレビが見えへん。邪魔やからそこどけ」
冷たい言葉を浴びせてくる。
「実践するんが大事やって、志の輔師匠もいうてるやんか」
「テレビ見とんねん! さっさとめし食え!」
おばあは声を張り上げた。せっかくおばあの健康を気遣っているのに、怒鳴られるのは納得いかない。もう、放っておくことにする。

僕は席に戻り、黙ったままタンパク質たっぷりの料理を口に運ぶ。おばあがテレビに目を向けたままいった。
「お前、ちょっと痩せたか」
たしかに最近、痩せてきた。食べ過ぎで太ってきたので2か月ほど前から筋トレをはじめた。その効果が現れているのは、おばがあよくタンパク質の多い料理を出してくれているからでもある。ありがたい。でも僕は感謝の言葉は口にするつもりはない。黙って最後のホタテを口に入れた。

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