僕がおばあに料理を作るとき、気を付けているのは味を濃くしすぎないこと。
おばあは僕が物心ついたときから血圧が高く、朝晩服用する降圧剤が欠かせない。高血圧からくる片頭痛にも長年、悩まされてきた。
原因はわかっている。濃いめの味のものが好きだから、塩分過多で血圧が高いのだ。僕も薬が手放せなくなるのは嫌なので、おばあの手料理を食べていたときは「味は薄いのがええ」と、ことあるごとに頼んでいた。
おばあは「(病気には)なるときには、なるもんや」と、健康のために生活習慣をあらためるつもりはは毛頭ないようで、「おいしいもんを食べるんが”一番”や」と、焼き魚でも刺身のツマでもドバドバと醤油をぶっかけたりする。
僕も本心では、ちょっと濃いめの”おばあの味が一番”とは思うけど、”薄味が好き”ということにしている。薄味が好みとなれば、それが”一番”ということになる。だからおばあも渋々納得して塩分控えめの料理を用意してくれた。
おばあにとって薄味の料理を作るのは、決して健康のためではなかった。ただ、おばあも同じものを食べるので、結果的に健康のためにもなっていたと思う。
そして今、僕が代わりに料理を作るようになった。おばあ好みの料理を作りたい半面、その料理が原因で、健康を害するようなことは何としても避けたい。米寿を過ぎたおばあの血圧がこれ以上悪化すれば、冗談抜きで命にかかわる。
ところがおばあは、
「もうちょっと辛い(濃い)ほうがええ!」
と血圧のことはお構いなしで、料理の味にダメ出ししてくる。
いくら健康的な料理でも、おいしくなければ食べてくれない。野菜嫌いの子に、なんとか野菜を食べさせようとする親御さんの気持ちがよくわかる。
悩んだときにまずすることといえば……そう、Googleに相談! すると、うま味や酸味、辛味など、塩味以外の味を効かせると、塩分ひかえめでも満足できるという記事が無数にヒットする。
中でも、トウガラシの辛み成分(カプサイシン)が減塩にいいという記事に目がとまった。
そこで今回用意したのは、ハバネロ入りの激辛ふりかけ! ハバネロは、普通のトウガラシの数倍の辛さで、カプサイシンがたっぷり入っているそうだ。
いきなりハバネロは極端すぎるだろうか。まずは一味とか七味といった無難なところから……と一瞬思ったけど、僕はおばあに「なんでも思い切りが大事や」と、言葉でも行動でも幾度となく教えられてきた。十年以上前、会社を辞める勇気がない僕の背中を押してくれたのもおばあだった。
ここは直感を信じてハバネロでいこう! とはいえ……辛すぎるのも血圧が上がりそうで心配だから、自分で味見してみる。指先につけて舐めてみると、意外と平気……いや、やっぱり辛い! あとから”暴君”にふさわしい強烈な辛さがやってきた! だけど食べられないほどではなく、ごはんと一緒なら問題ないはず。
念のため、激辛ふりかけのパッケージを見せながら、
「トウガラシの辛さは平気?」
とおばあに聞いてみると
「そんなん大丈夫や!」
と自信満々の答えが返ってきた。そこでようやく、おにぎりにふりかけた。
おばあは僕より濃い味が好みだし、ピリ辛好きの印象も特にないけど、意外とイケるのかもしれない。
おかずも、できるだ健康的で味が濃いものを用意した。まずはサバ缶。
おばあは魚より肉派だけど、サバ缶なら骨まで食べやすく味もしっかりついていて、おまけに血圧を下げる効果まである。
そこに添えたのは、オクラと玉ねぎのレンチンオムレツ。味付けは酸味の効いた酢豚のタレだ。葉物やニンジンの温野菜も用意した。
おばあは早速、両手にスプーンの二刀流で、
プレートのおかずも、
ハバネロふりかけをかけたおにぎりも
どんどん食べ進む。
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(※写真の右端をクリックすると3枚目で動画が見られます)
激辛ふりかけも
「おいしいわ」
と聞いて、一安心。気になる点数は
「80点!」
満点じゃないけど、この前の70点よりアップしているから僕としては大成功!
そうこうしているうちに、突然、おばあの動きが止まって……
「これは辛いわ」
とひとこと……って、辛さやってくるの遅すぎるやん!
だけど大丈夫! こんなこともあろうかと、
甘いマスカットを用意していた。
早速おばあは一粒つまみ、口に入れると
この満足げな顔。そういえば、おばあは辛いものより甘いものが大好きだった。
とはいえ辛いのも嫌いじゃないらしい。口に合わないとおばあは完食してくれないけど、今回は「辛い」と言いながらハバネロのおにぎりも結局、ぺろりと平らげてくれた。
こんなに笑ってくれるなら、とびきり甘いケーキとか味の濃いラーメンとか、たまには出そうと思う。もちろん普段は薄味だ。