おばあよ、本当にこれが〝若いもんがつくる”料理なのか!? キャベツと豚肉の炒め物 

スポンサーリンク

照り焼き風のミートボール、えんどう豆のたまごとじ、タケノコとこんにゃくの煮物、そして僕が子どもころから好きなたまご豆腐も! 食卓には色とりどりの料理が並んでいる。最近、炭水化物や甘いものをセーブしている僕は、夕飯が待ち遠しくてたまらない。おばあはまだ台所にいるけど、もう待っていられない。先に食べてしまおう。

箸を手にしてミートボールに狙いを定めたところで、台所からおばあが現れた。手には小皿を持っている。テーブルの僕とおばあの席には、すでに7皿ずつ料理がひしめいているのに、さらにもうひと皿あるというのか!

キャベツと豚肉の炒め物、ミートボールなどおばあが作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・キャベツと豚肉の油で炒めたん
・照り焼きミートボール(惣菜)
・たまご豆腐
・えんどう豆のたまごとじ
・たけのこと手綱こんにゃくの煮物
・かきたまみそ汁
白菜、豆腐、たまご
・サラダ

生:玉ねぎの醤油漬け、ミニトマト、春キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

祖母(おばあ)が作ったキャベツと豚肉の炒め物

おばあが持ってきた小皿の上では、炒めたキャベツと豚肉がテカテカと照り輝いていた。テーブルの向かいの席に着いたおばあは、

「たまには若いもんがつくるようなもんを、出したらなあかんやろ!」
と胸を張った。

え? なんやって? と僕は聞き返しそうになった。料理について不用意に質問をすると、なぜかおばあは文句をいわれたと受け取るらしく、機嫌が悪くなる。まずは自分で考えてみたほうがいい。僕の思い違いということもあり得る。

本当にこの何の変哲もないキャベツと豚肉の炒め物が「若いもんがつくるようなもん」だというのか? 僕は嫌いじゃないけど、「出したらなあかん」といわれるほど特に好きということもない。もしかしておばあは、別の料理のことをいっているのか?

祖母(おばあ)が買ってきたミートボール

ミートボールは、おばあの行きつけの総菜屋で買ってきたものだろう。照り焼きというのは珍しい。こういうミートボールはふつう、自宅で手づくりなんかしない。だけどおばあは「若いもんがつくる」料理だと勘違いしているのか?

ひとつ口に入れてみると、弁当で食べたことのある、あの適度に柔らかい歯ざわり。醤油と砂糖の甘辛さが、ミンチと大豆タンパクの業務用ミートボールによく合う。
「照り焼きのミートボール、けっこういけるな」
と感想を伝えてみると、
「そうか」
とおばあは気のない返事。こちらに目も向けずに、キャベツと豚肉をほおばっている。どうやら、おばあがいっていたのは、ミートボールのことじゃなさそうだ。

えんどう豆のたまごとじ

他の料理、えんどう豆のたまごとじや、

タケノコと手綱こんにゃくの煮物

タケノコと手綱こんにゃくの煮物は、「若いもんがつくる」特別な料理というより、おばあの得意料理だ。

玉子豆腐

たまご豆腐は、僕が子どものころから好きな一品だ。スプーンですくって口に入れると、ひんやりと冷たく、ぷるぷるとした食感が心地いい。たまごとダシのやさしい味も、あのころから変わっていない。幼稚園に入ったときにはもう、スプーンをグーで握って食べていた気がする。味と食感が、好物の茶碗蒸しに似ていて、はじめて食べたときから好きになったと思う。

さすがにおばあも、たまご豆腐を家でつくっている「若いもん」がいるとは思わないだろう。おばあだってスーパーでパックのやつを買ってくるし、最近よく食卓に並んでいる。

やっぱり、豚肉とキャベツの炒め物が、おばあのいう「若いもんがつくるようなもん」なのか。ひと口食べてみると、味がかなり濃い。塩と醤油のシンプルな味付けだけど、明らかに分量を間違えている。それに、ねっとりとした舌触りも気になる。多めに使った油が、豚肉から染み出してくるのだ。

そういえば、おばあは炒め物をあまりつくらない。ここ最近で思いつくのは、1カ月以上前、Cook Doの合わせ調味料でつくった回鍋肉もどきの中華風炒め物くらいだ。煮物は毎日のように食卓に並ぶけど、たまにしかつくらない炒め物はあまり得意じゃないらしい。この前の中華風炒め物のときも、回鍋肉と八宝菜が混ざったような炒め物に仕上がっていた。

味が濃いとか、油が多いとか、炒め物が若者の料理というのは偏見だとか、いいたいことは色々あるけど、ここは黙っていよう。おばあが普段つくらない炒め物に挑戦してくれたのは、「若いもんがつくるような」料理を僕に食べさせようとしてくれたからだ。品数が多いのもたまご豆腐もありがたいし、今日は何も指摘しないでおこう。

まずは味の濃い炒め物を平らげると、
「それ、うまかったか?」
おばあが珍しく味の感想を聞いてきた。
「うん。うまかった」
と僕がうつむいたまま答えると、
「まだ台所に残ってるから入れてこいや」
とおばあは、笑顔でいった。

口の中が辛いので正直、もう食べたくない。だけど心に決めたことはちゃんと守り通そうと、僕は空になった小皿を持って台所に向かった。どうせ少ししか残っていないだろうと高をくくっていたら、フライパンには小皿が山盛りになるほど残っていた。僕は一度、フライパンの中身を全部小皿に入れたあと、半分ほどをまた戻した。

キャベツと豚肉がフライパンで炒められているところ