11月の半ばも過ぎて、最高気温は25度越え。大阪は記録的に遅い夏日になり、僕は昼間、半そで短パンで過ごしていた。
陽が沈んでもまだ暖かく、僕は真夏の小学生みたいな恰好のまま、晩ごはんを食べにおばあの家にやってきた。締め切った居間は、むわっとするほど熱気がこもっていて、寒がりのおばあもさすがに分厚い”はんてん”を脱ぎすてていた。
そしてテーブルには、にぶく銀色に輝く大きな鍋が。まさか……こんな熱々の料理を、よりによって真夏日の晩に!?
状況が飲み込めないまま僕が席に着くと、向かいのおばあが――
待ち構えていたように手を伸ばし、フタを取ると――
湯気とともに現れた鍋の中身は――
見るからに味の染みた大根やごぼ天、牛すじにたまご! これはまさしく、熱々のおでん!
おでんは好きだし、この前から食べたかったけど……どうして今季初のおでんを、よりによって今日出したのか……。
「熱いうちに、さっさと食べや」
とおばあは言うけど、夏日におでん食べたら、全身汗だくになるで、おばあ!
おばあは僕が来るより先に食べ終えているけど、違和感はなかったのか!? それにわざわざ温め直して、熱々にしてくれているのはどういうわけなんだ!?
それにしてもこのおでん、今日が一日目のはずなのにほとんど汁がなく、具材はしっかりと煮込まれ、大根なんて崩れかかっている。味はたしかにおいしそうだ。ひとまず具材を皿に取る。
メニュー
・おでん
大根、牛スジ、ごぼ天、たまご、にんじん、こんにゃく、たけのこ
・サンマの開き
・野菜
生ピーマン、茹でほうれん草、にんじん
・納豆
・ごはん
おかずは、おでんのほかにも――
サンマの開きや、
ケチャップの添えられた三種の野菜、
納豆まである。
汗だくを覚悟し、まずはおでんの中でも好物の大根を一思いに頬張る……すると、熱いツユが染み出してきて、僕も額に汗が噴き出すのを感じる。やっぱり、おばあが作るおでんは最高! でもこの甘めの味……最近も食べたような!?
それに大根のほかに見覚えのある、タケノコや二等辺三角形のコンニャク……そうか! これ、いつもの煮物に、具材を足しておでんにしているのか!
効率的でおいしい、おばあらしいアイデアだと思うけど……どうして夏日におでんなのか……そもそもこれは煮物風おでんなのか……それともおでん風煮物なのか……一緒に出してくれたチューブのショウガはカラシと間違えているのか……賞味期限が2ヶ月前に切れているのも気づいていないのか……。
いろいろ疑問が湧いてきたけど、汗をかきながら今季初のおでんを味わっているうちに、なぜか心地よい充足感に満たされていた。