メニュー
・東洋水産「黒豚シュウマイ」
・味の素の「冷凍ギョーザ」
・焼き茄子
・真っ黒な煮物
ゼンマイとタケノコと手綱こんにゃく
・たまご焼き
・高野豆腐
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、ミニトマト、キャベツ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
何なんだこのメニューは!? 僕が着いているのは、中華料理店の回転テーブルか!? いや、たしかに、おばあの家の食卓だ。一瞬、錯覚してしまったのは――
おばあが最近ハマっている冷蔵シュウマイと、
お馴染みの冷凍ギョウザが、なんと一緒に並んでいるからだ!
どちらも小麦粉の皮でひき肉の餡を包んだ、ポピュラーな中華料理。それをあえて同じ食卓に並べ、食べ比べようというのか!? そのために、常備している冷蔵シュウマイと冷凍ギョウザを同時に放出するとは……なんて贅沢なことをするんだ!
「今日、何かいいことでもあった?」
テーブルの向かい側のおばあに聞いてみると
「ええことも悪いことも、なんもあらへんわ。ふつうや」
とこちらも見ずに答えた。
おばあは僕が来るより先に食事を終え、テレビ番組「ナニコレ珍百景」に見入っている。
“なんもあらへん”って、そんなはずは……。シュウマイとギョウザが並んでいるだけじゃない。今晩は他のおかずもやけに充実している。これが“ふつう”の日のメニューだというのか!?
醤油の香ばしいかおりがする焼きナスは、ナスを贅沢に2本は使い、皿に山盛りになっている。たっぷりの油で表面が照り輝き、シュウマイやギョウザと一緒に並んでいると中華料理の一品のようだ。さらに――
黒くなるまで味が染みている煮物や、
高野豆腐、
たまご焼きまである!
それにスペシャルなのは、おかずだけじゃない。いつも欠かさず食卓に並ぶ、ごはんがないのだ! まさか……小麦の皮で包まれたシュウマイとギョウザが、ごはんの代わり!?
たしか中国では、ギョウザはおかずというより、主食として食べられているそうだ。だから中国人は、日本の「餃子の王将」で、ごはんとギョウザが一緒に出てくる餃子定食を見て驚愕するらしい。
おばあも本場の習わしにしたがって、ギョウザを主食として出したのか!? いくつになっても衰えない食への飽くなき探求心が、そうさせたのかもしれない。だけど食べ慣れたごはんの代わりを、ギョウザだけに任せるのは心もとなく思えて、同じく皮で包まれたシュウマイも一緒に出した。そうだ、そう考えれば、今晩のメニューの説明がつくぞ。
僕がひとまず答えを見つけたとき、おばあが振り向いた。そして、
「さっきから、何やってんねや。台所にラーメンあるからつくってこい!」
と大声でいった。
ラーメンだって! シュウマイとギョウザは、ごはんの代わりじゃなかったのか? そもそもごはんがなくても充分満足できそうなのに、本当にラーメンまで用意しているのか? 半信半疑で台所に向かうと――
あった! チキンラーメンだ! いつもラーメンに乗せる3色のトッピングもある。シュウマイとギョウザ、そして他の何皿ものおかずに加えてラーメンなんて、「餃子の王将」でもそんな注文したことない。いくら何でも、豪勢すぎるよ!
とはいえ、僕にとってはうれしいサプライズだ。久しぶりに食べるチキンラーメンの袋を手に取ろうとすると、
「何ぼさっとしてるんや! さっさとラーメンつくらんかい!」
背後からおばあの大声がしたかと思うと、2本の手が伸びてきて――
袋をひったくるようにつかむと、勢いよく破って中の麺を取り出して丼ぶりに移す。
そしてコンロの火にかけていた鍋を手にすると、
熱々の湯をかけ、
3色の具材をトッピングして3分待てば――
おばあ特製、チキンラーメンの完成だ! 具材たっぷりのラーメン、そしてシュウマイとギョウザ、焼きナスなどのおかずがずらっと並ぶ光景を目の当たりにすると、やっぱり僕は大きな中華料理店の回転テーブルに着いている。そう思わずにはいられない。
贅沢な気持ちになって、まずはチキンラーメンから食べはじめる。少し角のある麺は、思ったよりもつるっとしている。スープはあの醤油と鶏ガラの変わらない味だけど、以前食べたときよりも後味がすっきりしているようだ。冷やし中華みたいな3種の具材も合っている。たまらず次々と麺をすする。
勢いづいた僕は、焦げ目のついた香ばしいギョウザを頬張り、噛めば肉汁が飛び出すシュウマイを続けて味わった。今晩の料理は、想像以上にお腹にたまる。
おばあもこれだけの料理を平らげたのだろうか? そんなことが気になって、テーブルの向かい側に目をやると――
おばあは好物のアイスクリーム「パリパリバー」をかじっていた。いくら85歳とは思えない食欲を発揮するおばあでも、僕と同じだけ食べていたら、デザートにアイスなんて入らないだろう。おばあの晩ごはんのメニューは軽めだったのに違いない。
そう断定したところで、おばあが突然振り向いた。何か大事なことを思い出したような顔つきで、
「そうや、ごはん入れてなかったな! 自分でよそってこい!」
と大声でいった。
「ごはんって! これ以上、食べられるわけないやろ!」
僕は咄嗟にいい返した。
おばあが最初に考えていた今晩の献立は、目の前のメニューに加えて、ごはん