こんなの『が』いいんだよ!80代の女子会弁当と冬至のゆず湯


こんなの『が』いいんだよ!80代の女子会弁当と冬至のゆず湯

「今晩は、こんなんしかないで!」
おばあがいきなりキレ気味にいった。晩ごはんを食べにきただけで、なんで怒られないとだめなんだ……。わけがわからないままテーブルに着くと、そこにあったのは――

女子会の日に祖母(おばあ)が買ってきた弁当

メニュー
・女子会の弁当
・ミートボール?
・ナカムラさんの煮物
ちくわ、カボチャ、タケノコ
・サラダ
生:トマト、玉ねぎの醤油漬け、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

買ってきた弁当である。おばあは今日、近所の80代の友達と〝女子会”を開いたのだ。料理やお菓子を山ほど持ち寄り、午前中から夕方まで好きなだけ食い、飲み、しゃべりまくるという集まりを、おばあは定期的に開催している。去年まで料理は自分たちでつくったものだけだったけど、今年からは弁当を買ってくるようになった。平均年齢が80代の半ばとなり、料理を持ち寄る楽しさより、つくる苦労が大きくなったらしい。

女子会の日には、80代の女子たちが食べた弁当を、おばあは僕にも持って帰ってきてくれる。彼女たちは、ちょっとのおかずをいろいろ食べたいわがままな年頃なので、買ってくる弁当にも品数豊富なおかずが詰まっている。僕が独り暮らしのころに会社で食べていた、大きめのチキンカツがどかっとごはんに乗っているだけの特売弁当とはわけがちがう。大人の女子のお眼鏡にかなった弁当なのである。とても〝こんなんしか”と、残念がる気にはなれない。おばあはさっき、どういうつもりでいったのだろう……。

祖母(おばあ)が買ってきた弁当の唐揚げとヒジキとジャガイモ

弁当には鶏の唐揚げや、ジャガイモの煮っころがしにヒジキ――

買ってきた弁当に入っていたエビチリと赤いウインナー、玉子焼き

弁当のおかずの定番の赤いウインナーや玉子焼き、さらに一個だけエビチリまで入っている。

買ってきた弁当に入っていたマカロニサラダ

隅っこのマカロニサラダもうれしい。

祖母(おばあ)が買ってきた、がんもどき

さらにミートボールらしきおかずもある。これ以外にもさまざまな惣菜があり、残ったミートボールを持って帰ってきたのだろう。

ちくわとカボチャとタケノコの煮物

それに、誰かがつくった煮物もある。たぶん煮物が得意なナカムラさんの手づくりだろう。

「さっき〝こんなんしかない”とかいうてたけど、これだけあれば、じゅうぶんやで」
僕は感謝の気持ちを込めていった。ところがおばあは、
「いっつも、もっとつくっとるやろ!」
とまた声を荒げた。

そうか! と僕はピンときた。出来合いの弁当より、おばあが毎日つくってくれている料理のほうが、豪華で上等だといいたいのだ。それくらいのプライドを持つにふさわしい料理を、たしかにおばあは毎日こしらえてくれている。だから買ってきた弁当が出たときは、いくらおいしそうでも、おばあの手料理じゃないことをちょっと残念がるくらいのほうが、かえってよろこんでくれたのに違いない。

それに今晩は弁当があるのに、栄養のバランスを考えてか――

祖母(おばあ)が作ったトマトと玉ねぎを乗せたサラダ

サラダだけは手づくりで用意してくれている。ありがとうおばあ! 期待通り、残念がってやるで!
「弁当は、何だかがっかりやわ」
そういってうつむくと、
「もう遅いわ!」
とさっきよりも大きな声が飛んできた。

それから――弁当を食べすすめていると、向かいの席のおばあの姿がしばらく見えないことに気がついた。台所のほうに顔を向けると、横手の風呂場の電気がついている……しまった! 風呂の掃除とお湯張りは僕の仕事なのに、手持ち無沙汰のおばあに先を越されてしまった。

最近、僕の家の風呂は水漏れしているので、おばあの家で入らせてもらっている。だから風呂掃除くらいは当然の義務だと思って毎日、隅々まで磨き、排水口もきれいにしていた。それをおばあもよろこんで任せてくれていたんじゃないのか。女子会で思い切り楽しんできた今日くらい、ゆっくりしていたらいいのに。

様子を見に行くと、おばあが妙なものを手にして――

祖母(おばあ)が風呂に柚子を入れているところ

湯がたまりかけた風呂桶に入れていた。

冬至に風呂に柚子を入れる祖母(おばあ)

両方の手の平の中でごろごろと、4つの丸い物体をころがし、

冬至の柚子湯をつくっている祖母(おばあ)

勢いをつけて湯の中に放った。

冬至の日に入る柚子湯

これはみかん、いや……ゆず! 風呂にこんなものを入れるなんて、すごくおしゃれ……な気がする。美容が気になるキラキラ女子がやってるやつみたいじゃないか。もしかして今日の女子会で、風呂にゆずを入れるとお肌がつやつやになって皺がとれるとかなんとか、別の80代女子から教えられたのだろうか……。水面を漂う黄色いゆずを茫然と眺めていると、おばあが振り返り、
「冬至は、ゆず湯に入る日や!」
といった。そういえば、そんな風習があった気がする。でも、冬至って昨日じゃなかったっけ……? 僕が黙っていると、おばあはつづけて、
「晩ごはんはもう食ったんか? 洗い物しとるから先に風呂入れや」
といった。

今日が冬至かどうかは、どうでもいい。それよりも、こんなおしゃれな風呂を用意してくれたうえに、先に入っていいなんて……。
「ありがとう!」
と僕はいって、残りの晩ごはんを平らげに、食卓へと急いだ。久しぶりにはっきりと感謝のことばを口にした気がする。そう思った途端、さわやかなゆずの香りがした。

冬至に風呂に柚子を浮かべているところ

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