おばあは先日、僕が炒めようと思って買ってきた『こてっちゃん』を、あろうことか晩ごはんの鍋に投入して煮込んでしまった。
“『こてっちゃん』は炒めるもの”という常識が通じないおばあのフリーダムな振る舞いに、心底驚かされたけど、できあがった料理の味は……何だかちょっと悔しいけど、ピリ辛のもつ鍋みたいで絶品だった。まだまだ残暑で蒸し暑い中、熱くて辛いもつ鍋を、汗だくになりながら食べまくった。お陰でスタミナはばっちりで、夏バテにもコロナにも負ける気がしないほど体調は万全だ!
さらに別の日には、牛肉とタコさんウインナーを一緒に煮たり、丸ごとのイワシと手羽元を組み合わせたり……僕の発想力のはるか斜め上をいく新メニューを、おばあは次々と生み出している。しかもそのどれもが食べ応えのあるスタミナメニューで、食べると体の底から力がみなぎってくる!
今夜も意外な食材のコンビネーションで、おいしくて力の出る料理を作ってくれているはず! そんな期待を抱きながらおばあの家に行くと――テーブルには……なんと!?
皿いっぱいの崩れた鮭に――
シンプルな山盛りのサラダ、そして――
豪快にごろんと転がっている玉ねぎ……って、意外なものを組み合わせるどころか、ほとんど食材そのままやんか、おばあ!
メニュー
・鮭のアラの焼いたん
・レンチン玉ねぎポン酢がけ
・サラダ
野菜:キャベツ、ミニトマト
・ごはん
僕があっけにとられていると――
「今日は買い物行ってへんから、そんなんしかないで」
おばあが浮かない顔で言う。
“そんなんしか”とおばあは言うけど、よく見ると鮭は脂の乗ったアラだ! 身が崩れていても、ひと口食べると絶妙な塩気と甘めの脂があとを引き、たまらずごはんがすすむ!
サラダはいつもよりシンプルだけど、キャベツだけではなく、よく熟れた濃厚な味わいのミニトマトを乗せてくれているところに、おばあの心遣いを感じる。
それに気になる玉ねぎは、電子レンジで温めたらしく、どばっとかけてあるポン酢の爽やかな酸味が甘みを引き立てている。この玉ねぎの調理法、おばあが“女子会”仲間に教えてもらったやつだ! 以前にも夕飯に出してくれたことがある。
買い物に行かなくても、残っていた食材と長年の知識を駆使して作ってくれた晩ごはん……“そんなんしか”なんて思わへんで、おばあ!
料理の感想を伝えると――
「そうか」
とおばあはテレビを見ながら、ぼそっとつぶやいただけだった。でも一瞬、頬が緩んだのを僕は見逃さなかった。